シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「じゃあ、ここで」

自宅の前に着いたとき、朝比奈はそれ以上は踏み込まなかった。
舞香は軽く頭を下げて、ドアの前で立ち止まる。

「今日は……ほんとに、ありがとうございました」

「こちらこそ。お大事に。
――薬、忘れないでくださいね」

「……はい、気をつけます」

扉を閉める直前、ふたりはもう一度だけ目を合わせた。
その一瞬が、妙に長く感じられた。

舞香は、部屋に入るなり、背中を預けるようにドアにもたれた。

小さな深呼吸。
まだほんの少し、呼吸の波は浅い。

けれど、さっきまでの苦しさとは違う。
今は、胸の奥があたたかくて、少しだけ騒がしい。

――“なんとなく”、って言ってたけど。
そんなの、絶対うそだ。

でも、うそでもいい。
来てくれたことが、嬉しかった。

知らなかった。
こんなに、誰かに“そばにいてほしい”って思う感情が、
静かで、優しくて、苦しくなるほど強いものだなんて。