シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「少し、歩けそうですか?」

朝比奈の言葉に、舞香はうなずいた。
呼吸はまだ浅めだったけれど、彼がそばにいるという事実が、何よりも心強かった。

歩き出したふたりの足音が、夜道にやさしく重なる。
静かな住宅街。街灯の明かりが、ふたりの影を寄り添うように伸ばしていた。

「……実は、前にもこういうことがあって」

舞香が、ぽつりと語り出した。

「大学のとき、夜のバイト帰りで倒れて……でも、誰にも言えなくて。
しばらく、吸入薬を持ち歩くようになったのに……今日は、忘れてきちゃって」

「きっと、大丈夫って思いたかったんですね」

「はい。……思いたかったんです。あの日、助かったから」

朝比奈は、隣で黙って聞いていた。
相槌も言葉も少ないけれど、その“沈黙の間”がやさしかった。

舞香は、ふと口元をゆるめた。

「……変ですね。今日、会えてよかったって思ってます」

その言葉に、朝比奈が少しだけ驚いたように目を細める。

「俺も、そう思ってます」

その返事は、まっすぐで、少しだけあたたかかった。