シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「舞香さん?」

その声がしたとき、世界がふっとつながった気がした。

視界の端に、暗い夜道に浮かび上がるように、朝比奈の姿があった。
舞香は膝をつきかけた体を、彼の腕に支えられた。

「苦しい? 吸入薬は……持ってないか」

うなずけなかった。
ただ肩で息をし、胸の奥が締めつけられるようだった。

「大丈夫。焦らないで。俺の声、聞いて」

朝比奈は手を優しく背に添えながら、
静かに、しかしはっきりとした声で続けた。

「口すぼめ呼吸、できますか? 唇をすぼめて、細くゆっくり吐いて。
吸うより“吐く”のを意識して。空気を押し出すように」

舞香は、なんとか頷いた。
彼の言葉のリズムにあわせ、唇をすぼめて息を吐く。

しばらくして、肺の奥にたまっていた重さが、ほんの少しだけ抜けていくのを感じた。

「そう、いいです。その調子。大丈夫、落ち着いてきてる」

彼の声が、風の音に負けないほど優しく、力強く届いた。

なぜ彼がここにいたのか――
その疑問は、あとまわしでよかった。

今、彼が“隊員”としてではなく、“朝比奈さん”として、そばにいてくれる。
それだけで、十分だった。