シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

その日の営業が終わる頃、舞香は少しだけ息が浅くなっていることに気づいていた。

深呼吸が、うまくできない。
胸の奥がぎゅっと締めつけられるような感覚――久しぶりの、いやな予感。

「大丈夫?」

香奈衣が心配そうに声をかけてくる。
けれど、舞香は首を横に振った。

「大丈夫……だと思います。ちょっと、乾燥してるだけ」

自分でも、苦しいときほど“だいじょうぶ”と言いたくなる癖があるのを、知っている。

戸締まりを終え、香奈衣に「お疲れさま」と手を振ったあと、
夜風のなかを歩き出した。

数分もしないうちに、視界が少し滲む。
鼓動が速くなり、呼吸が浅くなる。

「……っ」

近くの電柱に手をついて、必死に息を吸い込もうとする。
けれど、吸えば吸うほど空気が足りない感覚に襲われる。

こんなときに限って、吸入薬を持っていなかった。
それだけが、こんなにも不安を大きくする。

「……誰か……」

声に出せない声が、夜に溶けていった。