シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

午後三時を少し回ったころ。
カフェのドアが、控えめな音を立てて開いた。

カラン――

その音を聞いた瞬間、舞香の手が止まった。
客の応対中だった香奈衣が、ちらりとそちらに視線を向けたあと、にやりと笑って小さく頷いた。

やっぱり、来た。

グレーのジャケットに、控えめな黒のニット。
姿勢は変わらず真っ直ぐで、けれど表情はどこか……緊張しているように見えた。

「こんにちは。……また、お邪魔します」

「いらっしゃいませ」

自然に返したつもりの舞香の声が、少しだけ高くなっていた。

朝比奈は、カウンターに近い2人席を選び、静かに腰を下ろした。

そして、メニューを開くでもなく、舞香のほうを見て口を開いた。

「このあたり……火災の影響、まだ残ってませんか?
念のため、気になって」

――そのために来た、みたいな顔をして。

でも、その声の調子も目の色も、前より少しやわらかくなっていた。