シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「……まだ来ないね、“お客さん”」

背後からふいにかけられた声に、舞香はピクリと肩を揺らした。

「香奈衣さん……やめてください、急に」

「いやあ、ほら。わかりやすいからさ」

香奈衣はにやりと笑いながら、エプロンのポケットからメモを引っ張り出す。
今日の仕入れリストのようだったが、目は完全に舞香を観察していた。

「来てほしいの?」

「……べつに」

「来たら、うれしい?」

「……べつに」

「はいはい、ベツニ星人さんね。そういうとこ、ほんとかわいい」

舞香は思わずスチーマーの音を強めてごまかした。
けれど、顔のあたりがぽうっと熱くなっていくのは、隠しきれない。

「顔、赤いよ。湯気のせいじゃないよね?」

「それ、業務妨害です」

そんな言葉を交わす間にも、舞香の心のどこかで、
「また来ます」という低くてやさしい声が、静かに響いていた。