シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

カラン――
ドアベルが鳴ったとき、舞香はカップを手にしたまま動きを止めた。

「こんにちは」

あの落ち着いた声が、空気をふわりと和らげる。

朝比奈は、前回と同じようなジャケット姿で立っていた。
けれど、少しだけ表情が柔らかく見えた。

「今日もおひとりですか?」

「……はい。
あの……前回も言いましたけど、
火災のあとなので、何かお困りのことがないかと思いまして」

急にかしこまった口調。
その言い回しが、かえって舞香の口元を緩ませた。

「わざわざ、それだけのために?」

「いえ……まあ。
それが“ついで”になるように、研修をこの辺で探しました」

どこか照れくさそうに視線を外す彼を見て、
舞香はようやく、小さな笑みを返した。

「大丈夫です。困ってることは特にないです」

「……それならよかった」

本当に“よかった”と思ってるんだろうな、と舞香は思った。

それだけの言葉に、ふたりの間の空気が、少しだけ近づいていた。

火の中で始まった関係。
名前を覚えて、声を思い出して、また少しだけ近づいた。
これは、まだ知らない“恋”の、やさしい始まり。