シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「……で?」

片づけを終えた舞香に、香奈衣が不意に声をかける。

「で、って何ですか」

「“お客さん”が帰ったあとに、カウンターでにやけてたのは気のせい?」

「にやけてません!」

即答した自分の声が妙に高くて、
舞香は思わず自分で口を押さえた。

香奈衣は笑いながらエプロンを外す。

「ふーん。
“また来てもいいですか”なんて言われたら、そりゃちょっと嬉しいよね」

「……あの人、まじめなんですよ。たぶん、ほんとに“客として”来るだけです」

「それでもいいじゃん。会えるってだけで、意味あるでしょ?」

その言葉に、返す言葉が見つからなかった。

何かを期待してるわけじゃない。
でも、次に会えると思うだけで、心のどこかがふんわりあたたかくなる。

舞香は、自分の中に少しずつ灯り始めた感情に、まだ名前をつけられずにいた。