シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「そろそろ、戻らなきゃいけません」

空になったカップをトレイに乗せ、朝比奈が静かに立ち上がる。
その声に、ほんの少しだけ名残惜しさが滲んでいた気がした。

「今日は、来てくださってありがとうございました」

舞香が丁寧に頭を下げると、
朝比奈は少し考えるように間を置いて、口を開いた。

「このお店、また来ても……迷惑じゃないですか?」

突然のその言葉に、舞香は一瞬だけ驚き、そして思わず笑った。

「……それ、確認することですか?」

「一応、職務との線引きは……まあ、大事なので」

「大丈夫です。お客さんとしてなら、歓迎です」

そう言った自分の声が、思ったよりも素直だった。

「……じゃあ、また来ます」

一歩下がって彼がそう言ったとき、
舞香は、自分でも知らないうちに少しだけ肩の力が抜けていた。

店の扉が閉まる音が、いつもよりやさしく響いた。