シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

夜の署内。
書類整理の手を止め、朝比奈はふと窓の外を見やった。

――高島舞香。

その名が、今日一日、何度も頭に浮かんでは消えた。
火の中で彼女を背負い、命をつなぎとめたあの瞬間。
彼女が見せたあのまっすぐな目は、忘れようとしても、記憶の奥に焼きついていた。

「……礼を言いに来るなんて、思ってなかったよ」

あの感謝状授与式。
彼女の声が震えていたのは、緊張か、別の何かか――
そこまで考えて、頭を振る。

感情を持ち込んではいけない。
市民との個人的な接触には、距離を置くべきだ。
それが、救急の現場に立つ者のけじめだ。

そう言い聞かせても、
彼女があの場に立っていた姿が、何度も脳裏をよぎった。

手を伸ばすべきじゃない。
けれど――なぜか、手放すこともできなかった。