シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「ねぇ、電気なくても、何か温かいもの……飲みたくない?」

舞香がふと思い出したように言うと、海斗は小さく笑った。

「……この状況でも、コーヒー?」

「……うん。カフェインレスコーヒーね。カセットコンロがあるの。非常用にしてたやつ。
それでお湯わかせば……インスタントくらいだけど、飲めるよ?」

「さすがカフェ店員。用意がいい」

「ふふん、こう見えて、備えはしっかりしてるんだよ」

舞香は立ち上がって、キッチンの引き出しから道具を取り出し始めた。
海斗はその背中を見ながら、静かに微笑む。

「あ、でも火使うから、ちょっと窓あけて換気するね。
海斗さん、ランタン持っててくれる?」

「了解。任務、受けた」

お湯が沸くまでの短い時間、ふたりは並んでカウンターに座った。

「すっかり……家デートって感じだな」

「……うん。停電だけど、なんか、こういうのも悪くないかも」

「電気ない方が、舞香の顔がよく見える」

「それは絶対ウソ……」

舞香は恥ずかしさに肩をすくめたが、
海斗の真剣な眼差しに、心臓がトクンと鳴る。

「ほんと。こういう静かな夜に、
こうして舞香の隣にいられるの、たまらなく好きだ」

「……っ、またそうやって……」

舞香がコーヒーを差し出す手が、ほんのわずか震えていた。

「じゃあ……いただきます」

「はい。舞香特製の、“停電ブレンド”です」

ふたりの笑いが、小さな部屋にやさしく響く。

海斗がコーヒーを口にした瞬間、ふっと表情を緩めた。

「……あったかい。ほっとする」

「でしょ?」

舞香は嬉しそうに、彼の顔を見つめる。

その瞬間――

「……好きだよ、舞香」

「……っ……え……?」

言葉が唐突で、でも、心にすとんと落ちた。
舞香は視線を逸らせずに、彼の眼差しをじっと見返す。

「私も……好き」

そう言った途端、コーヒーカップをテーブルに置き、
海斗は舞香の手をとって、自分の胸に引き寄せた。

「……おいで」

「うん……」

もう一度、ソファに座り直し、今度は舞香が海斗の膝の上に腰を下ろすように身体を預ける。
ブランケットの中で、ふたりのぬくもりが重なっていく。

「……ちょっと、こうしてるだけで、全部安心する」

「俺もだよ。……舞香がここにいてくれてよかった」

「これからも……ずっといていい?」

「ずっと、いろよ」

やわらかく交わるキス。

夜の静けさの中で、ふたりの鼓動だけが――寄り添うように、響いていた。