シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

閉店後の店内、舞香はレジを締めながら、ふと手を止めた。

「朝比奈さん……」

その名前を声に出してみる。
別に、特別な意味があるわけじゃない――
そう思いたいのに、言葉にした瞬間、胸の奥がふわりと揺れた。

「ただの感謝。それだけ」

口に出してみても、あまり説得力がなかった。

彼の声は、まだ耳の奥に残っている。
あの落ち着いた口調。誰かを安心させるためにあるような、やわらかい低音。

思い出すたびに、あのときの温度がよみがえる。

けれど舞香は、自分の心に芽生えかけている何かに、まだ名前をつけられずにいた。

扉の外に広がる冬の空気が、ほんの少し、冷たく感じられた。