シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

イベント会場から電車を乗り継ぎ、夕暮れどき。
ふたりは静かな住宅街に戻ってきていた。

「……やっぱり、人多かったな。ぐったり」

玄関で靴を脱ぎながら、海斗がぽつりとつぶやく。
その背中に、舞香がそっと手を伸ばす。

「おつかれさま。すごく、かっこよかったよ」

「……そう?」

「うん。……でも、今日の“耳”の意地悪は許さないけど」

舞香がぷいっと顔をそらすと、海斗はくすっと笑いながら後ろから抱きしめる。

「えー、ちゃんと“ご褒美”も欲しいなって思っただけなんだけどなあ」

「うそ。絶対、意地悪な気持ちでやってた」

「まぁ、ちょっとだけ、拗ねてたのは認める」

腕の中で舞香がむくれる気配を感じながら、海斗は彼女の額に唇を落とす。

「でも……俺の前では、いっぱい笑ってよ。他の人に見せる笑顔より、ずっと」

その低くて優しい声に、舞香は頬を赤らめながら、小さくうなずいた。

「……ちゃんと、見せる。海斗にだけ」

「じゃあ、今日は舞香の好きなカレー作ってやる。チーズ入りのやつな」

「ほんと? それなら、許してあげてもいいかも……」

「“あげても”って何だよ……」

玄関で交わされた、ささやかなやり取り。
そこにはもう、大会の緊張も、会場でのざわめきもなかった。

ただ、日常の中でふたりが“家族”のように帰ってきた場所。
肩の力が抜けたぬくもりの中で、今日も一緒に、夜を迎える。