シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

控えスペースに戻った朝比奈は、汗をぬぐい、軽く水を飲んでから携帯を手にした。
そこには「今、少しだけ会えるかな?」という舞香からのメッセージ。

迷わず、静かな通路を選んで合流した。

会場の一角、人目のない柱陰。
淡いピンクのブラウスに紺のスカートを着た舞香が立っていた。

彼女の目元は既に潤んでいて、朝比奈の姿を見た途端、胸に手を当てて小さく息を呑んだ。

「……もう、ほんと、かっこよすぎて……目、合わせられないよ……」

小さな声。
それでも、その言葉は真っ直ぐに心を打つ。

「そんな大袈裟な……」

照れたように口元を歪めて笑う朝比奈の前で、舞香はぽろりと涙をこぼした。

「がんばってる姿……かっこよすぎて……胸がぎゅってなって……」

そのまま言葉にならなくなり、泣きじゃくる舞香に、朝比奈は静かに歩み寄る。

そっと、腕の中に彼女を包み込む。

「……泣くほどのことじゃない。な?」

声は低く優しい。
けれど、舞香はただ、首を横に振って肩を震わせる。

「でも……でも、わたし……海斗が……あんなふうに全力で誰かを助けてる姿……好きにならないわけ、ないもん……制服もかっこいい...あとで写真撮りたい」

言葉の端々が震え、涙が制服に染みるのが分かる。

朝比奈はゆっくりと、舞香の背中に手を回し、上下にやさしくさすった。

「泣きすぎると、また息苦しくなるだろ。……ほら、深呼吸」

静かに、落ち着いたトーンで、彼は彼女に語りかける。

「吸って……吐いて……そう。俺の声、聞いてれば大丈夫だろ?」

舞香は彼の胸元に顔をうずめたまま、小さく何度も頷いた。

その手には、朝比奈の制服をぎゅっと掴む指先。
その背を支える手が、深い想いをそっと伝えていた。

表彰までのひととき――
ふたりだけの小さな時間は、静かに優しく流れていった。