シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

幕張メッセの裏手通路。
競技終了のアナウンスがまだ微かに響くなか、久瀬消防署の3人は静かに控室へと歩を進めていた。

「……終わったな」

檜山がヘルメットを外し、ゆっくりと深呼吸する。張りつめた空気が抜けて、肩の力が自然と抜けていく。

「……すみません、朝比奈さん。胸骨圧迫、交代のタイミングギリギリになりました」

池野が申し訳なさそうに頭を下げる。

「いや、タイミングは完璧だった。しっかり繋げてくれて助かった。ありがとう」

朝比奈は声を低く、穏やかに返す。自然と背中にあった緊張が溶けていった。

「池野の点滴処置、見事でした。滴下も早かったですし、穿刺も一発でしたね」

檜山が言うと、池野が照れたように首をすくめる。

「ありがとう……でも正直、手が少し震えてた。うまくいって良かった。」

「本番で震えるくらいの緊張感は、むしろ悪くない。ふたりとも、よくやってくれたよ」

朝比奈が視線を交わしながら言うと、ふたりは目を合わせ、小さく頷いた。

「この後、少しだけ打ち上げしませんか? ノンアルでもいいので、甘いものが食べたいです」

檜山が提案し、池野もすぐに続く。

「賛成です。……そういえば舞香さんたち来てるなら誘ったらどうですか?
きっと、褒めてくれますよ」

その名前を聞いて、朝比奈は一瞬だけ眉を緩めた。

「……ああ、そうだな。あとで声かけてみる」

軽く肩をすくめながらも、どこか嬉しそうな顔だった。

ささやかな会話の中に、確かな信頼と絆があった。

競技は終わった。
だけど――この三人でまた現場に出られることが、何よりの誇りだった。