シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

幕張メッセの広大な展示ホールには、
いくつかのブースが区切られて設けられていた。

それぞれの区画では、異なるシナリオのもとで救命活動が展開されており、
会場内には、ピリピリとした緊張感が静かに張り詰めていた。

舞香と香奈衣は一般見学者エリアから、
ひときわ注目を集めている第4ブースの前に陣取っていた。

「……ここが、久瀬消防署のブースみたい」

「ほんとだ。……複数同時進行って、想像以上にリアルね」

香奈衣がパンフレットを折りたたみながら、視線を走らせる。

4つのチームが並行して異なるケースに対応し、
各ブースにはカメラが数台ずつ設置され、
審査員たちはヘッドセットをつけながら巡回して記録と評価をしていた。

スクリーンに逐一映像が映されるわけではない。
そのぶん、観客たちは隊員たちの動き一つひとつに集中していた。

「……あ、始まる」

第4ブース――久瀬消防署チームが、準備を終え静かに整列した。

朝比奈海斗、池野翔太、檜山卓也。

3人とも顔つきがまるで違って見える。
普段は和やかで冗談も言い合う彼らが、
今はまさに“現場に立つ男たち”の顔になっていた。

「……ほんとに、かっこいい」

香奈衣の言葉に、舞香も小さく頷く。

彼女の目はまっすぐに朝比奈だけを捉えていた。
その後ろ姿に、自分の知っている彼と、知らなかった彼の両方が重なっていく。

「でも……こういう姿、誰かと共有できて良かった。
ひとりだったら……きっと息止めて見てたと思う」

「……わかる。こっちまで緊張するわね」

ブース内では、隊員たちが的確に傷病者役のマネキンに対して処置を始めていた。
遠くからは詳細までは見えないが、
その動作ひとつひとつに、重ねてきた訓練の確かさが滲んでいた。

審査員がブースに近づいてはメモを取り、
時折、顔を上げて真剣な目で3人の動きを追っていく。

(今、彼らは命を救う想定の中にいる――)

舞香は、胸の奥がぎゅっと熱くなるのを感じながら、
その背中を、最後まで見届けようと静かに拳を握った。

――この瞬間、物語は“彼らの視点”へと切り替わる。