シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

閉店後、カウンターに戻ってきた香奈衣が、コーヒーを淹れて舞香の前に置いた。

「お疲れ。初日なのに、しっかり動いてたね」

「ありがとうございます。……お客さんたちが、変わらず来てくれて、ほっとしました」

そう言いながら、舞香は湯気の向こうで目を細めた。
まだ少し咳が残るけれど、心配されるほどではない。

「ボヤで済んだのは、不幸中の幸いだったよね。
煙が充満した割に、フロアはほとんど無事だったし」

「……はい。あのとき、ほんとに、いろんな人が冷静で……」

ふと、声が小さくなった。
思い出すのは――火の中、息苦しさのなかで呼ばれた、自分の名前。

香奈衣が、舞香の横顔をちらりと見た。

「……で、再会してどうだった?」

唐突に聞かれ、舞香は一瞬フリーズする。

「え、あ……いえ、別に、ただ、お礼を言えただけです」

「ふうん」

香奈衣のその一言が、なぜか妙に引っかかった。