シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

カフェ「リエール」のカウンター奥。
忙しいランチタイムの合間――

舞香は静かにしゃがみ込み、そっと腰を押さえていた。

「舞香?」
香奈衣がすぐに異変に気づき、しゃがんで顔を覗き込む。

「……今日は、生理……ちょっと重くて」

「そっか。腰とお腹?」

「うん……大丈夫、すぐ戻れるから」

「戻らなくていい。バックヤードのソファで横になってなさい。
あなたが倒れたら、私が大変なんだから」

香奈衣はそう言いながらも、心配そうに舞香の背をさすった。
そのとき――入口のドアベルが鳴った。

「香奈衣さん、来たよ――……あれ?」

島崎春輝が店内に入ってきて、二人の様子に足を止めた。
香奈衣の視線と、舞香のしゃがみこんだ姿――一瞬で状況を把握した彼は、静かに一歩前に出る。

「……体調不良?」

「ちょっと生理が重くて。ソファに移動させたいんだけど、
バイトも休みで今手が離せなくて……」

香奈衣がそう言うと、島崎は軽く頷いた。島崎は、真っ直ぐに香奈衣を見て言った。


「僕でよければソファまで連れて行きますよ。裏の毛布借りても良いですか?」


その声は、普段の軽口からは想像できないほど落ち着いていた。

「歩けそうですか?ゆっくりで良いですよ。」

言葉のあと、島崎は何も言わずに一歩引いた。

舞香に正面から向き合うのではなく、
少し後方――肩越しに見える距離へ立つ。

「舞香さん、腰がつらいなら、前かがみの姿勢が楽になると思います。」

優しすぎない、けれど確かな声。
そして、手を差し出すことなく、自分の存在を控えめに示すだけ。

(……春輝、ちゃんと消防士らしいじゃない)

香奈衣はその立ち居振る舞いに、言葉以上の“配慮”を感じ取っていた。

舞香が彼の横を通り、そっと歩き出す。
島崎は必要な距離を保ちながら、静かに後をついていく。
ただそれだけの動作なのに――香奈衣の胸が、どこかざわついた。

(……なんなのそれ、かっこよすぎるんだけど)

何も言わず、何も求めず。
ただ、必要なことを淡々とやる。
そういう“本気の顔”を、
彼が持っていることを――
香奈衣は、はじめて知った気がした。