シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

夜。
舞香の部屋には、柔らかな灯りとともに、静かな甘さが流れていた。

「……今日、リエールでね。
またちょっと変な話が広まってた」

ソファで肩を寄せ合っていた舞香が、くすくすと笑いながら言った。

「なんだ、また島崎あたりが変な噂でも……?」

「違うの。今回は、お客さんも巻き込んでた。
――“プリンス・レスキュー”って、呼ばれてるらしいよ」

「……は?」

横にいた海斗が、あからさまに固まった。

「誰が?」

「……海斗さんが」

「……」

舞香が振り向くと、彼の耳が、じわじわと赤く染まっていくのが見えた。

「“気道確保が美しい”とか、“回復体位が甘い”とか、
いろいろ言われてるみたいで……」

「まって、舞香、それ……全部お前の口から漏れてないか?」

「ばれた?」

舞香がくすりと笑うと、海斗は両手で顔を覆った。

「……俺、久瀬消防の王子ってことになるぞ。しかも、訓練オタクの……」

「でも、かっこいいよ。
“プリンス・レスキュー”――私は、ちょっと誇らしい」

その言葉に、海斗の手がぴたりと止まる。

「……君が、そう言うなら……まあ、いいけど」

「じゃあ、今日から私も、プリンスって呼んじゃおうかな」

「……それだけは、やめてくれ」

「なんで?」

「……君にだけは、ちゃんと名前で呼んでほしいから」

そう言って、海斗はそっと舞香を引き寄せた。

「プリンスじゃなくて……
君だけの、“海斗”でいたいんだ」

その言葉に、舞香の心がじんわりとあたたかくなる。

「……うん。
じゃあ、あなたは私の“海斗さん”でいてね」

唇が重なる直前、ふたりは同じぬくもりで、そっと微笑んだ。
それはあだ名を超えた、もっと深い“名前”の絆だった。