シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

カフェ「リエール」の昼下がり。
まったりとした空気が流れる店内に、
香奈衣がコーヒーカップをふたつ手にして戻ってきた。

「……でさ。聞いちゃったんだけど――“プリンス・レスキュー”って、誰のことか分かる?」

その言葉に、舞香はぴたりと動きを止めた。

「……えっ、それ、もう呼ばれてるの?」

「うん。なんなら久瀬消防内では、けっこう定着してきてるっぽいわよ?」
香奈衣がにやりと笑うと、隣にいた島崎が首をかしげながら補足する。

「朝比奈さんのことでしょ?
高島さんと“訓練ごっこ”してるとか、“気道確保がやたら丁寧”とか。
もう、あれはプリンスでしょう、って」

「うわぁぁ……っ、私、そんなつもりじゃ……!」

舞香が顔を両手で覆うと、香奈衣はくつくつと笑いながら、
「でもさぁ、ああいう真面目な人があそこまで甘くなるのって、
ギャップ萌えっていうのよ。ほら、普段はクールなのに、
“高島さん限定でとろけてる”感じ?」と茶化した。

「……それ、本人知ってたら絶対顔真っ赤になる……」

「さっき、署の方に行ってた配達のおじさんも言ってたよ。
“あのプリンス・レスキューの彼女さんなんでしょ?”って」

「もう無理ぃ……っ」

「まぁ、いいじゃん。“あの人、私の彼です”って言いたかったんでしょ?」

「……言ったけども!」

常連客の笑い声と、香ばしい焙煎の香り。
舞香はどこか恥ずかしそうにしながらも、
少しだけ頬を緩めた。

「……今夜は、からかわれたお返ししないとね。プリンスに」

そうぽつりと呟いたその表情は、ちょっとだけ意地悪で、
でも確かに“愛されている”女の顔だった。