シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

その日のカフェ「リエール」は、いつになくにぎやかだった。
ランチタイム後の一息ついた時間、香奈衣がレジの奥で舞香に顔を寄せて言った。

「ねえ、噂になってるって聞いたよ。“気道確保事件”」

「……っ!!」

舞香は思わずコーヒーミルを止めた。

「池野さんたち以外には言ってないのに、なんで知ってるの……?」

「消防署に出入りしてる仕入れ業者さんがね、
“朝比奈さん、最近“気道確保班長”ってあだ名ついてるらしいですよ〜”って。
もうね、爆笑だったわ」

「そ、そんな……!」

顔を赤くして俯く舞香。
そこへちょうど、お客さんとして入ってきたのが――副署長・天野と島崎だった。

「やあやあ、久しぶりですね」
天野が微笑む中、島崎がにやりと笑って近寄る。

「舞香さん、“訓練ごっこ”続いてますか?」

「……っ! もう、みんなしてからかうのやめてください……っ」

「いやいや、俺らからしたらあんな真面目な朝比奈さんが、
“舞香ちゃんに回復体位”って……最強のギャップなんですよ~」

「天野さんも笑ってるし……」

「隊員が熱心に訓練しているのは、実に良いことですからな」
天野が涼しい顔で言って、香奈衣は吹き出した。

その夜、帰宅した海斗に、舞香はおそるおそる打ち明けた。

「……あのさ。カフェで、ちょっと、うっかり喋っちゃって……」

「……ん?」

「“人工呼吸の練習までされた”って、つい……」

沈黙。

「……っっっ! それだけは言うなって、言っただろ……!!」

顔を真っ赤に染めた海斗が、タオルを頭に被ったまま床に膝をついた。

「もう……本当に……俺、久瀬消防の“口づけ隊員”になるぞ……」

「ご、ごめん。でも……そんなふうに甘えてくる海斗さんも好きだから……」

その言葉に、彼はタオルの下でぴくりと動いた。

「……それ今、反則。
もうこうなったら、口づけ“実技”で反省させるしかないな」

「――えっ」

数秒後、ソファに押し倒された舞香の唇に、
“訓練”以上に優しくて甘いキスが重ねられた。

これぞ――朝比奈式、口づけ隊員の誇り(?)だった。