シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

香奈衣が注文を取って席を離れたタイミングで、舞香はふと思い出したように言った。

「そういえば……昨日の夜も、海斗さん、訓練の復習始めてて」

池野と檜山が顔を見合わせる。

「え、家で?」

「うん。私のこと、傷病者に見立てて……回復体位の練習とか」
舞香が少し照れながら言うと、
ふたりの隊員は目を丸くし、次の瞬間――くすっ、と笑い出した。

「……あの人、やっぱり真面目すぎる」

「しかも、傷病者役を舞香さんにやらせるって……もう、ほとんど私生活じゃないですか」

「そうなんですよ、
“気道確保します”とか言って、いちいち声かけてきて。
こっちは寝転がってるだけなのに、真剣な顔で確認するから笑いこらえるの大変で」

そう言って舞香が苦笑すると、今度は香奈衣も戻ってきて、聞き耳を立てた。

「なになに? 海斗くんがどんな顔して何したって?」

「訓練ごっこしてたって話です」

「……あの硬派くんが、彼女相手に“気道確保”はさすがに笑えるわね。
まあ、やりそうだけど」
香奈衣もくつくつと笑いながら、肩をすくめた。

池野が思わず呟く。

「……それ、今度ネタに使ってもいいですかね。署の朝礼とかで」

「だ、ダメですからね!」
舞香があわてて両手を振ると、香奈衣がニヤッと笑う。

「“隊員の鑑”、って紹介してあげるといいわよ?」

笑い声と、湯気を立てる料理。
にぎやかな午後のカフェは、今日もどこかあたたかかった。
舞香と海斗の“らしさ”が、仲間たちの間に確かに根付いているようだった。