シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

池野が手袋を外し、ぐいっと腕を伸ばしてあくびをひとつ。

「でも……訓練って、毎回ちょっと怖いっすよね。
『あ、これ本番だったらやらかしてたかも』って瞬間、後からぞっとする」

「それ、ありますね」
檜山も頷きながら、自分の手袋をくるくると丸める。

「訓練は時間止まってくれるけど、現場じゃそうはいかない。
だからこそ、こういう時間があるのは、ありがたいなって思います」

朝比奈は椅子の背にゆったりと身を預けながら、ふたりの言葉を聞いていた。

「お前たち、ちゃんと考えてる。……それが一番嬉しい」

その言葉に、池野が苦笑いを浮かべる。

「いやぁ、朝比奈さんの前だと、背筋伸びるっすから。
つい真面目な顔、しちゃいます」

「それ、俺も。なんか、“ちゃんとしなきゃ”って思うんですよね」
檜山も苦笑を漏らす。

「……なら、俺がもうちょっと緩くなるか?」

「いやいや、それはそれで不安です」
池野の即答に、三人が同時に笑った。

笑いの余韻の中で、朝比奈がふと真面目な表情に戻る。

「でも、次の実技公開……気張ろうな。
俺たちが見せる手技が、若手の教本にもなる」

「……はい」
「了解です」

二人の返事は、どこか誓いのように響いた。

それぞれの手袋には、消えかけたマジックの文字。
それでも、その下に刻まれた経験と絆は、まだ濃く、温かく残っていた。