シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「島崎くん、今日もごくろうさま〜」

「……お疲れ様です、店長」

カフェリエールの閉店間際。
春輝がいつものように雑巾を畳んでいたところ、
常連の主婦グループの一人が、にやりと笑って声をかけてきた。

「ねぇねぇ、最近“店長さん”と“お兄さん”、やけに息ぴったりじゃない?」

「えっ、そ、そんなこと……!」

「こないだなんてさ〜、店長さん、島崎くんに“甘すぎるコーヒー”出してたじゃない。
あれ、明らかに“恋人用”でしょ?」

「いやいや! たまたまです!」

春輝は慌てて否定するが、
香奈衣はカウンター奥でくつくつと笑っていた。

「店長さん、これはもう、“みんな知ってる”パターンですよ〜?」

「……だとしたら、島崎くんの隠し方が甘かったんじゃない?」

「え、俺!? っていうか、店長、フォローしてくれないの!?」

「今さら隠す必要ある? 別に悪いことしてるわけでもないし」

「いや、それはそうなんだけどさあ……」

スタッフのひとりがにやにやと囁く。

「“店長”って呼びながら、目は“香奈衣”って言ってるんですよね〜。
わかるわかる〜! 甘い!」

「……うわ、最悪だぁ……」

顔を真っ赤にする春輝の横で、
香奈衣はすっかり余裕の笑顔だった。

「ま、バレてちゃかされるくらいがちょうどいいかも。
それだけ、ちゃんと見てもらえてるってこと」

「……うん、でも次からはもっと気をつけようね」

「……無理。名前、呼びたくなるんだもん」

「……それ、もっと恥ずかしいってば……!」

ふたりのやり取りに、スタッフも常連客も、
どこか嬉しそうに笑っていた。

秘密なんて、とうにない。
けれど――
それでも“ふたりだけの呼び名”は、
今日も夜になってから交わされる。