シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

キッチンの時計が、ゆっくりと深夜の時間を刻んでいた。
照明は落とされ、リビングに灯るのは、ソファ脇の間接照明だけ。

カップに入れたままのハーブティーはもう冷めていたけれど、
ふたりの間には、柔らかくあたたかな空気が流れていた。

海斗の指が、そっと舞香の頬に触れる。

「……手が熱い」

「うん。まだ、気持ちが落ち着ききってないのかも」

そう言いながら、舞香は海斗の手のひらを両手で包み込んだ。

「さっきは、なんだかすごかったね」

「……我慢できなかった。
ずっと頭の中でぐるぐるしてて、
今ここにいないんじゃないかって、何度も悪い想像ばっかりして……」

その言葉に、舞香はそっと微笑む。

「ここにいるよ。ちゃんと、生きてる」

「わかってる。だから、ちゃんと……」

言いかけた海斗の腕が、再び彼女の身体を引き寄せる。

呼吸の音が重なるほど近く、
彼の額が舞香の額にそっと触れた。

「ちゃんと、俺の手で感じてたい。
生きてて、ここにいて、俺の名前を呼んでくれる――
そんな当たり前のことが、奇跡みたいに思えるから」

舞香は目を伏せて、
彼の首に両腕を回した。

「名前、呼ぶよ。……海斗」

その声に、彼の喉が小さく鳴る。

「……もう一回」

「海斗……」

ふわりと唇が重なった。
今度は、焦りでも衝動でもなく、
静かにほどけていくようなキスだった。

海斗の指先が、首すじ、鎖骨、背中へと確かめるように這う。
そのたびに、舞香は小さく体をふるわせながら、彼に寄り添った。

「……大丈夫。今夜は、ちゃんとここにいるよ」

「俺も、どこにも行かない。
朝が来ても、これからも、ずっと――」

その夜、ふたりは初めて、
「不安の終わり」と「安らぎのはじまり」を、同じ温度で確かめ合った。