シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

海斗の唇が離れた瞬間、
舞香の呼吸は、少しだけ浅くなっていた。

胸元に腕を回されたまま、
何も言えずに、ただ彼の体温を感じていた。

「ごめん……」

その一言が、彼の唇からぽつりと落ちた。

「怒ってたわけじゃない。
いや……怒ってたけど、本当は、怖かっただけなんだ」

彼の額が、そっと舞香の肩に預けられる。
その重さが、ずっと張り詰めていた心の糸を解いていくようだった。

「俺、こんなふうに人にぶつけたの……たぶん初めてで、
自分でもどうしていいかわかんなくて」

舞香はゆっくりと、
海斗の背中に腕を回す。

「……ぶつけてくれて、よかった。
だって私、ずっと聞きたかった。
海斗さんがどう思ってたのか、どこまで抱えてたのか――」

言葉にするたびに、
自分の中の何かがゆっくり溶けていくのを感じる。

「触れてくれて、嬉しかった。
求めてくれて、……ちゃんと“ここにいる”って思えたから」

海斗は黙ったまま、
肩に当てていた顔をゆっくりと上げた。

「俺……大事な人には、もう、絶対後悔したくないんだ。
守れるなら守りたい。自分勝手でも、欲張りでも、そう思ってる」

その目には、先ほどの激しさとは違う、
柔らかく、それでも確かな光が宿っていた。

舞香は頷く。

「じゃあ、私も。
そんな海斗さんを、信じて、預けるって決めたから」

ふたりの額がそっと触れ合い、
またひとつ、静かにキスが落ちる。

それは、さっきまでの荒ぶるものではなく、
やっと“同じ温度”で交わされた、深い息づかいのようなキスだった。

(苦しいのに、こんなにあたたかい)

胸の奥でそう呟きながら、
舞香は、その腕の中に包まれたまま、目を閉じた。