シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

カフェ・リエールの復旧作業が本格化するなか、
香奈衣は舞香の体調を気づかい、あえて店からは距離を置かせていた。

「ちゃんと治して。復帰はそれから」
そう言って笑った彼女の背中は、いつものように凛としていた。

――その店内で、
棚の組み立てや備品の整理に加わっていたのが島崎だった。

「こんにちはー。今日は照明器具の確認と、カウンターの棚、ですよね?」

「……言ってもいないのに、よく覚えてるじゃない」

「だって、頼られたいんで」

冗談交じりに言いながらも、
その手つきは的確で、作業の手を止めることなく進んでいく。

香奈衣はふと、そんな島崎の横顔を見て、
何かを言いかけたが、言葉にならず黙り込んだ。

舞香が様子を見に来ると、
香奈衣は軽く手を上げて言った。

「来たな。……まだ休んでていいって言ったのに」

「うん、でも少しは身体も慣れてきたし、顔出しくらいは」

「それでも、道具は触らせないからね。
何かあったら、私の責任になるんだから」

そう言いながらも、香奈衣の顔はどこかほっとしていた。

「島崎さん、ほんとに助けてくれてるの。……頼れるとこ、あるんだね、あの子にも」

その言葉に、舞香はくすっと笑った。

「香奈衣さんが誰かに頼るって、すごく珍しい気がする」

「……私だって、頼りたいときはあるの」

小さくそうつぶやいた香奈衣の声を、
島崎はしっかりと耳にしていた。

その日の作業後――
控え室でふたり並んで水を飲んでいたとき、島崎がぽつりと呟いた。

「俺、本気で手伝いたいんですよ。香奈衣さんが、ちゃんと全部終わったって笑えるまで」

「……それって、からかいじゃないの?」

「からかいだったら、もっと軽口で終わらせてます。
俺、香奈衣さんが無理してるの、ちゃんと見てて……だから、そばにいたいって思ってる」

その目は、まっすぐだった。

香奈衣は一瞬、視線をそらしてから、
そっと微笑んだ。

「……そういうことなら、じゃあ――一緒に、やって」

「了解。……じゃあ、もう逃げられませんからね」

ふたりの手が偶然触れたとき、
それをどちらも、わざと避けようとはしなかった。

自然に、肩が寄り添っていくような空気。
それは、確かな“始まり”だった。