シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「舞香には、手伝わせたくないの。
身体がちゃんと回復してからじゃないと、意味ないでしょ」

倉庫から戻ってきた島崎に、
香奈衣はそう言った。

店内はまだ作業中のままで、
床には未開封の備品や書類、工具が散らばっている。

香奈衣の額には汗がにじみ、
ジャケットを脱いだシャツの袖もまくっていた。

(……無理してる。絶対、これ一人じゃ無理な量だろ)

そう思いながらも、
彼女はどこか“助けを拒む姿勢”を崩さなかった。

「俺、なにか手伝います。
香奈衣さん、これ全部ひとりでやるつもりなんですか?」

「島崎、あんたまで巻き込みたくないの。
舞香だけじゃない、あんたも仕事で忙しいでしょ?」

「俺、舞香じゃないですけど、香奈衣さんのことだって……心配する権利くらい、あると思ってます」

その声に、彼女の動きがぴたりと止まった。

「俺、からかってばっかりかもしれないけど、
香奈衣さんが必死に一人で背負ってるの、もう見てられない。
……だから、ちゃんと頼ってください」

彼の目は、ふざけていなかった。

香奈衣は少し驚いたように息をのんで、
手にしていた布巾をぎゅっと握った。

「……そんなに真顔で言われると、逆に困るんだけど」

「困らせたくて言ってないです。
俺は、そばにいたいんです。香奈衣さんの力になりたい」

それはもう、告白に近い言葉だった。

香奈衣はしばらく黙ったあと、
ゆっくりと視線を下ろした。

「……じゃあ、ひとまずこの書類、運んで」

「はい!」

島崎の返事が、少し大きく響いた。

笑いながら、
香奈衣は目元を少しだけぬぐった。

(……ずるいな、ほんと。そう言われたら、甘えたくなるじゃない)

そうして、ふたりは初めて“同じ場所”に立った。