シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

午後3時、カフェ・リエールの一時閉店中の店内は静まり返っていた。

整理に来ていた香奈衣は、ホコリを払いながらグラスを箱に詰めていた。

キッチンの奥からは、
窓を開けたばかりの涼しい風がそっと吹き抜けてくる。

そんな中、ドアのベルが鳴った。

「どーもー、おじゃましまーす。お届けものでーす」

その間延びした声とともに、
食材と補修用の備品が入った段ボールを抱えて現れたのは、島崎だった。

「……あんた、消防じゃなかったの?」

「副署長が“近くだからついでに寄ってこい”って。
あと、香奈衣さんが重いの持つと腰痛ぶり返すって言ってたから、らしいです」

香奈衣はじろりと彼を睨む。

「勝手にそんな話したら、ただの老化キャラじゃないの」

「いやいや、俺は全然そう思ってないですけど?
むしろ色気と落ち着きと――ちょっとツンが入った感じが……」

「うるさい。ダンボールはそこ。グラス壊さないで」

言いながらも、
香奈衣の表情にはどこか笑みが浮かんでいた。

島崎が黙々と荷物を運ぶ姿を横目に、
香奈衣はふと、こうして彼が来るのが“悪くない”と思ってしまっている自分に気づく。

(……こういうの、なんなんだろ)

うるさいし、調子に乗るし、若いし。
でも――なぜか、気づくと目で追ってしまう。

コーヒーを淹れて差し出すと、
島崎が照れくさそうに受け取った。

「え、いいんすか。香奈衣さんの、貴重な一杯」

「味には文句言わないでよ?」

「そんな失礼なこと言うわけないっすよ。……うまっ」

ごくりと飲んだあとの笑顔に、
香奈衣はほんの少しだけ、目をそらした。

(……なんで、今、顔、熱いの)

その気持ちの正体は、
まだ彼女自身もよくわかっていなかった。