シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

週末の昼下がり。
舞香の部屋には、煮込み中のシチューの香りが静かに漂っていた。

ソファの上、並んで腰掛けたふたりは、
特別な話題もなく、ゆっくりとコーヒーを飲んでいた。

そんな静けさの中で――
ふいに、海斗が言った。

「なあ、いつか一緒に住もうか」

舞香はコーヒーカップを口元で止めたまま、
彼の横顔を見つめる。

「……いつか、って?」

「そんな遠い“いつか”じゃない。
舞香が落ち着いて、体調もしっかり戻ったら。
ちゃんと準備して、無理なく一緒に暮らす」

その声は真面目で、どこまでもまっすぐだった。

舞香はそっと、手のひらをテーブルに置いた。
そこへ海斗の手が重なり、指先が自然と絡まる。

「……私の家、広めだし、海斗さんの署にも、お店にも近いし。
最初は、ここで一緒に……っていうのも、あり?」

「ありどころか、それが一番ありがたい」

「……じゃあ」

「じゃあ、ここが俺たちの“ただいま”になるってことだな」

そう言って、彼はにこりと笑った。

(“俺たち”の、って……)

その響きが、舞香の胸にやわらかく染みていく。

一緒にご飯を食べて、
一緒に眠って、
明日の朝、「いってらっしゃい」と「ただいま」が交わせる生活。

そんな日々が、もうすぐ始まる。

その未来を、
ふたりはゆっくりと、でも確かに見据えていた。