シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

舞香の暮らしは、少しずつ落ち着きを取り戻しつつあった。

――とはいえ、カフェ・リエールは、まだ閉まったまま。

火災によるダメージは軽度だったものの、
天井の補修や配線点検、保健所の再査定などが重なり、
「営業再開は、少なくとも1か月後になる」と店長の香奈衣に告げられた。

(お店の音が、ちょっと恋しいな……)

そんな思いを抱えながら、
舞香は週に1回の通院と、ゆっくりとした生活で体力を回復させていた。

香奈衣は、海斗が夜勤のタイミングを見計らって、
何度か舞香の家を訪れてくれた。

「お弁当、作りすぎたからってだけ。変な意味じゃないからね」
そう言いながらも、玄関に立つ姿はどこか気恥ずかしそうだった。

「……ありがとう。やっぱり、香奈衣さんの料理って、ほっとする」

「でしょ? うちの店のコンセプト、“あたたかい記憶の味”だから」

そんな会話ができるようになったのも、舞香の回復を実感させるものだった。

時折、その訪問には、島崎が同行することもあった。

「香奈衣さん、これ俺が持つってば。重いのは任せてって言ってるのに」
「私が持った方が早いの。ほら、ちゃんと気をつけてよ」
「ええ~、俺、戦力外……?」

そんなふたりのやり取りが玄関先で繰り広げられ、
舞香はくすりと笑いながら出迎えるのだった。

海斗はというと、夜勤明けに顔を出せる日には必ず来てくれた。

訓練用のTシャツ姿で、
髪を少し乱したままでも、彼が来ると家の空気がふわっとあたたかくなる。

「ご飯、食べて帰る? シャワー、先にする?」

「……それ、どっち選んでも、幸せなやつ」

舞香の問いにそう答えて、
ふたりの“休息の時間”は、静かに続いていった。