シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

玄関の鍵を開けると、
やさしい陽だまりの匂いが、ふっと舞香の鼻をくすぐった。

海斗がそっと靴を脱ぎ、
「横になってろ」と言ってリビングのソファにブランケットを広げてくれる。

舞香は包帯の巻かれた右足を伸ばしながら、
照れくさそうに言った。

「……そういえば、昨日の足の固定、池野さんがやってくれたんだ」

「池野?」

「うん、現場にいてくれて。すごく丁寧にやってくれて……
病院の先生に、“現場の処置とは思えない”って褒められたの。なんか嬉しくて」

言い終えた舞香の声に、
隣に座った海斗の指先がぴくりと動いた。

「……そうか、池野か」

その声が、少しだけ低かった。

舞香が視線を上げると、
彼はブランケットの端を直すふりをしながら、わずかに唇を噛んでいた。

「……妬いてる?」

「妬くなってほうが、無理だろ。
……他の男に触られて、しかも同僚で、褒められて……
正直、面白くない」

そう言いながら、
彼の手が、舞香の左手を包み込むように重なる。

「でも……しかたないよ。私、動けなかったし……」

「わかってる。わかってるけど……」

海斗は舞香の手を引き寄せて、
その甲に、そっと唇を当てた。

「……今から、俺の色に戻すから」

その一言に、舞香は思わず目を見開いた。

けれど――彼はそれ以上は何もせず、
ただ、ゆっくりと舞香の額に唇を落とした。

軽く、ふれるだけのキス。
けれどその温もりは、深く、確かに舞香の心に染みていった。

(……この人、本当に、やさしい)

頬を寄せるようにして彼の肩に軽くもたれかかった舞香は、
ふと心のなかで呟いた。

“もっと元気になったら、ちゃんと……あなたに、全部、あげたいな”