シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

スマートフォンの通知は、ひとつだけ増えていた。
タイムスタンプは深夜2時半。

『ごめん、今ようやく落ち着いた。
症状、どう? 入院って聞いて正直焦った。
退院の予定わかったら教えて』

その短いメッセージに、
舞香の胸が、すうっとほどけた。

(気づいてたんだ……)

まっすぐな言葉。
簡潔なのに、そこに詰まっている気持ちが、
痛いくらいに伝わってくる。

舞香は枕元で、そっとスマホを両手で包むようにして、
画面に返す言葉を打ち込んだ。

『朝はゆっくり休んで。私はもう大丈夫。
午前中に退院するって言われたよ』

送信を終えたあと、
ほんの少しだけ照れくさくなって、スマホを伏せた。

朝食が運ばれ、着替えを済ませた頃――
看護師が退院手続きを告げに来た。

「お迎えが来てるみたいです。ご家族では……なさそう?」

舞香は思わず小さく笑ってしまった。

エレベーターホールへ向かうと、
その背の高い後ろ姿が、すぐに目に入った。

ネイビーのTシャツに、私服の落ち着いたベージュのスラックス。
訓練用の消防Tシャツが、どこか海斗らしい。

(仕事明けなのに……すぐに、来てくれたんだ)

その背中に、そっと声をかける。

「……海斗さん」

彼は、すぐに振り返った。

「顔色、戻ってきたな。よかった」

「うん、もう大丈夫。……本当に、ありがとう」

彼はそれには答えず、
ただ自然に、舞香の荷物を手に取って歩き出した。

Tシャツの背にある“久瀬消防”の文字が、
不思議とあたたかく見えた。

それは“彼が守るもの”であり、
同時に“彼女が信じられるもの”でもあった。