シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

病院の時計が、午後四時を指していた。
搬送されてから、もう二時間が過ぎている。

点滴のラインはまだ腕に繋がれたまま、
息はだいぶ落ち着いた。
足の痛みも、じっとしていれば気にならない程度だった。

ベッドの上、天井を見つめる時間がしばらく続いて――
舞香は、ゆっくりとスマートフォンに手を伸ばした。

充電の残量はまだある。
通知欄に、特別な名前はなかった。

(……来てない、か)

彼――朝比奈海斗からの連絡はなかった。

もちろん、わかっている。
あの騒ぎのあと、現場は混乱していたはずだ。
海斗は救助に戻っていたかもしれないし、
今もどこかで人命の最前線に立っているのかもしれない。

(……なのに、どうして……こんなふうに思うんだろう)

胸の奥が、じわじわと熱を帯びていく。

“今、海斗にいてほしい”
“誰よりも、彼に声をかけてほしい”

――そんな気持ちが、自分の中にあることに、
舞香は少し驚いていた。

(……一番、不安なときに……なんで、いないの……)

思った瞬間、喉の奥がきゅっと締まった。

すぐに、もう片方の手で顔を覆った。

(最低だ。こんな状況なのに……)

連絡が来ないという“それだけのこと”に、
こんなにも心が波立つことが、恥ずかしくて、情けなくて。

舞香は、静かにスマートフォンを伏せた。

まだ“何か”を期待してしまうその心を、
自分でどうにかしたかった。

けれど、それは、思っていたより難しかった。