シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「舞香さん……わかりますか。いま、少し姿勢を変えますね。仰向けになりますよ」

もう、自力で座ることもままならなくなっていた。
舞香の肩は波打ち、小さな胸が苦しげに上下を繰り返していた。

池野と檜山は、声をかけながら彼女の身体をゆっくりとブルーシートへと横たえさせる。

「檜山気道確保して。」

檜山は酸素マスクをしっかり固定し、呼吸が取りやすい角度に合わせる。

池野は視線を落として、ふと柔らかく言葉をかけた。

「舞香さん、今から心電図のパッチをつけます。
少しだけ胸元に触れますが、すぐ終わります。……安心してくださいね」

舞香の意識は薄く、それでも、
かすかに瞼が震えた。

池野はバッグから心電図モニターの電極パッチを取り出すと、
手袋越しに慎重な手つきでシャツのボタンを外して襟元をずらす。

「肌に直接つける必要があります。寒くないように、すぐ毛布で覆いますからね」

その動作は一切の迷いなく、けれど決して乱暴ではなかった。
鎖骨下、肋骨の沿う位置、胸の左下――
電極は、ひとつずつ呼吸に合わせるように貼り付けられていく。

「……はい、終わりました。毛布、かけ直しますね」

池野は毛布を再びかけ直し、舞香の手首にそっと触れて脈拍と心電図を確認した。

モニターが起動し、
リズムを刻む電子音が流れる。

「頻拍傾向あり。波形、今のところ正常……SpO₂は変わらず。
すぐに搬送入れるよう、搬送準備完了と伝えて」

池野は無線で隊員へ指示を飛ばすと、
再び舞香に語りかけるように声を落とした。

「高島さん、大丈夫ですよ。すぐ病院に向かいますからね」

その言葉が――何よりも強く、何よりも温かく、
仰向けの視界に響いていた。