シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「池野さん、こちらです!」

檜山の声に応じて、池野が駆け寄る。
一目見るなり、眉をひそめた。

「……呼吸音、かなり荒いな。舞香さん、僕の声、わかりますか?」

舞香は反応しようとしたが、しゃくりあげるように喉が鳴り、声にならない。

苦しさに任せて動いた手が、無意識に首元へ――
爪が皮膚にかかりかけたその瞬間、

「――檜山、手を押さえて。支えるように」

「はい!」

檜山が舞香の両手を包むように押さえる。
手袋越しのその温度に、微かに指先が震えた。

池野はバッグを開き、手袋を装着しながら指示を飛ばす。

「酸素入れるから。体位保持はしていて……よし、吸って」

レギュレーターのバルブを開き、酸素マスクをそっと舞香の顔に添える。

「大丈夫。大きく吸わなくていい、浅くても、入れていこう」

パルスオキシメーターを彼女の指に装着する。

「SpO₂……90。ちょっと低いな……」

池野は無線を手に取り、落ち着いた声で指示する。

「こちら第2現場、呼吸困難・意識反応低下あり。
優先搬送対応を要請します。救急車の到着を急がせてください」

「了解、対応に入ります」

一方で、彼は隊員たちに短く目配せする。

「CPR想定で準備して。」

返事はなくとも、周囲の空気が動いた。
チームの呼吸が揃う音がした。

「高島さん、わかりますか? 私の声、聞こえてますか?」

瞼がかすかに震える。

「大丈夫、聞こえてますね。もう少しの辛抱ですよ」

檜山の手は、まだ舞香の手を包み込んでいた。
そのぬくもりが、かすかな鼓動のように、確かにそこにあった。