シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「……すみません。顔色……かなり悪いですが大丈夫ですか?」

その声は、静かだったけれど、確かに届いた。

舞香が顔を上げると、
見慣れない若い隊員が眉をひそめてこちらを見つめていた。

「……呼吸、浅いですね。わかりますか?」

舞香は、かすかに頷いた。

「……喘息……です。でも……吸入器……お店に……」

言葉にならないほどの声。

「わかりました。今すぐ搬送の準備をします。
まずは体を楽にしましょう。少し体を起こしますね」

若手隊員は、舞香の上体をそっと支え、
保温用の毛布を肩に掛けた。

「呼吸、楽な姿勢を探しましょう。少し前屈みになって……そう。
背中、支えますね」

手際は決して熟練ではなかったけれど、
ひとつひとつが丁寧だった。

無線機を取り出し、耳にあてて話しかける。

「こちら第2現場、軽症区画。呼吸困難あり、喘息既往あり。
救命士池野さん、聴こえますか? 患者の搬送順位、繰り上げたい。至急トリアージお願いします。」

「……了解、すぐ戻る」

返ってきたのは池野の声。

舞香の目元に、ふっと涙が溜まった。

助けを呼べなかった自分に、
誰かが“気づいてくれた”こと。

今、それだけがどれほど救いになっているか。

「大丈夫です。もうすぐ、必ず楽になりますから」

若い隊員の手が、そっと背に添えられた。

そのぬくもりに、舞香は静かに頷いた。