シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「舞香さん、テーピングは終わりました。
あとは病院で処置を受けてもらえれば大丈夫です。
でも体調に変化があったら、すぐに呼んでくださいね。遠慮しないで」

池野がそう言い、バッグを閉じかけたそのとき――

「池野さん、すみません! 東側で意識レベル下がってる方がいます!
もうひとり、お願いします!」

少し離れた位置から、若い隊員の声が飛んだ。

池野は一瞬だけ舞香の顔を見て、眉を寄せたが、
すぐに頷いた。

「わかりました、行きます!――舞香さん、本当に、無理しないでください。
あとでまた確認に来ますから。体調に変化があったら、絶対に呼んでくださいね」

「……はい。大丈夫です、ありがとうございます」

笑って見送る舞香に、池野は一度深くうなずき、
すぐに別の現場へと駆け出していった。

その場に、静けさが戻った。

一気に周囲の気配が遠ざかっていくように感じて、
舞香はふぅ、と小さく息を吐いた――つもりだった。

けれど、肺の奥が、空気を受け入れてくれない。

(……あれ?)

ほんの少し、背筋を伸ばすと、胸が圧迫されるように痛んだ。

(……また……きた)

避難の途中で感じていたわずかな違和感。
動いていた間はどうにかごまかしていたが、
じっと座っている今、はっきりとわかる。

息が、浅く、苦しい。

(……今、こんなとこで発作起こしたら……)

人手が足りていないのは、舞香にだってわかっている。
邪魔をしたくなかった。

「……っ、は……っ」

胸を押さえ、目を閉じる。

苦しい。でも、乱せない。

海斗が支えてくれたときの呼吸を思い出し、必死で整える。

吸って、吐いて。
目立たぬように、浅く、静かに。

「……っ、ん……っ」

息を吐くたびに涙が滲んだ。

でも、声にはしない。
助けを呼ばなければ、迷惑はかけない。

“誰かを守ること”を選び続けたその背には、
今日もまた、自分の痛みが静かに積み上がってしまう。