シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

発表会当日の朝。
久瀬消防署の裏手、搬送用の公用車に荷物を積み込んでいた島崎の手が、微かに震えていた。

「……やばい。緊張してきた」

「いつもどおりでいい。
俺たちのやってきたことを、ただ話すだけだろ」

そう声をかけたのは、海斗だった。

自分の制服ではなく、控えめな署のロゴが入ったグレージャケット。
今日は“付き添い兼送迎役”として現地に同行する。

「……って言われても、朝比奈さんは表に出るタイプじゃないっすもんね」

「そうだな。俺は基本、裏方だ」

そう言って海斗はふっと笑う。

「でも――久瀬消防が、火災や事故以外で注目されるのって、ちょっと嬉しいんだよな」

「……あ」

「“助ける”って、何も非常時だけじゃない。
地域と向き合って、寄り添って、笑ってもらえることが“備え”になるってこと――
ちゃんと伝えてこいよ」

島崎は一度、呼吸を深く吐いてから、
海斗と目を合わせて小さくうなずいた。

「……任せてください」

「頼む」

ふたりの間に言葉以上の信頼が流れ、
そのまま車のドアが閉まる音が、静かに空に響いた。