シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

久瀬消防署。
朝のミーティング室で、天野副署長の声が響いた。

「……というわけで、今年度の広報活動の優良事例として、
うちの地域防災イベントが消防庁の発表会に推薦された。
島崎、君に登壇してもらう」

一瞬、室内がざわついた。

「え、俺っすか?」

「当然だろ。
現場での調整力、広報ブースの運営、周辺との連携――
全部、お前の動きが評価されてる」

島崎は珍しく、きょとんとした顔のまま固まっていた。

「……マジで? いや、俺、あんま……」

「やるんだよ」

天野の静かな圧に、誰もツッコめない。

(やべぇ……)

島崎は頭を掻きながら、
そのまま書類を受け取って部屋を出た。

──午後、Cafe Lierre。

昼のワイドニュースで「消防庁広報発表会」の文字が流れ、
地域枠に「久瀬消防署」の名が紹介された。

「……あ、これ、島崎さんじゃない?」

舞香がコーヒー片手に画面を指さす。

「すごいね、ちゃんと評価されたんだ。
あんなに軽口叩いてたのに」

「……口だけじゃなかった、ってことでしょ」

香奈衣が言った言葉は、誰にでも聞こえるトーンだったけれど、
その目はテレビの向こう――
プレゼン台に立つスーツ姿の島崎を、じっと見つめていた。

──夜。
署に残って残業していた島崎は、ホワイトボードの前で練習していた。

言葉が噛んでも、姿勢がぎこちなくても、
とにかく誠実に、まっすぐに伝えようとする。

ふと、背中に視線を感じて振り返るが、誰もいない。

「……なにやってんだろ、俺」

それでも、もう一度立ち位置に戻る。

そしてつぶやく。

「……見ててよ、店長」

言葉にすることで、少しだけ肩の力が抜けた気がした。