シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

土曜の朝。
舞香は、ベッドの中でぼんやりと海斗の気配を感じていた。

キッチンから、鍋のふつふつという音と、
鼻をくすぐる味噌の香り。

「……舞香、起きた?」

「ん……起きた……けど、まだ……ちょっと眠い」

「じゃあ、ゆっくりでいいよ。味噌汁あったまるまで時間あるから」

その言葉に安心して、
もう一度、布団の中に顔を埋める。

ここは、舞香の家。
でも――最近は、海斗の家に泊まる日も、彼が来る日も多くて。

どちらかの部屋にいるのが、もう“ふたりの暮らし”のようになりつつある。

パタン、と冷蔵庫の音。
ゴトッと食器が置かれる音。

朝の音が、心地いい。

リビングに出ると、海斗がエプロン姿で振り返った。

「おはよう。……ほら、座って」

テーブルには、焼き鮭に卵焼き、味噌汁に小鉢。
まるで旅館の朝ごはんみたいな献立。

「すご……こんなに?」

「作りすぎたから、一緒に食べてもらうために泊まってるってことで」

「ずるい理由……」

笑いながら箸を取ると、
海斗がふと、湯気の向こうでつぶやいた。

「……調味料、今度こっちにも常備しておくか。
いちいち持ち歩くの、めんどくなってきた」

「そんなに来てた?」

「週の半分以上はこっちにいるし。……それってもう、帰ってるって言ってもいいよな」

舞香は、味噌汁を一口飲んだあと、
照れたように頷いた。

「じゃあそろそろ、“帰る”じゃなくて、“ただいま”って言ってもいい?」

「……うん。言って」

「……ただいま」

その言葉に、海斗はゆっくりと微笑む。

「おかえり、舞香」

ふたりの距離がまた、
一歩“未来”に近づいたような気がした。