シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

反省会が終わった後、
会議室の片隅に取り残された舞香と香奈衣。

香奈衣は、使い終えた資料をさばさばとまとめながら、
ふいに呟いた。

「……あの男、ほんと、調子に乗るの早いんだから」

「……島崎さんのこと?」

「他に誰がいるの」

舞香は苦笑して、机の端をなぞるように指先で撫でた。

「でも……店長、ちょっと嬉しそうだった」

「……っ、ないない。どこ見てんのよ、まったく」

「でも、ちゃんとお礼言ってくれてましたよ。
休憩スペースのことも。
……私、店長があの時、ああ言ってくれなかったら、
きっと前に出る勇気持てなかったと思う」

香奈衣は舞香の方を見ないまま、
会議資料をバインダーに挟みながら静かに言った。

「……あのとき、舞香が誰かのためにって顔してたから。
それが眩しかったの。だから、私もちょっとだけ背中押しただけ」

「……でも、あの一言がすごく大きかった。
店長は、いつも私のタイミングで“背中を押してくれる”んです」

「……ふふ、変な子。
私なんて、だれかに押されるより先に引っぱたきたくなる人間よ?」

「そういう強さ、たまに憧れます」

「……強くなんかないわよ」

資料を抱えて立ち上がりかけた香奈衣が、ふと止まり、
ぽつりと舞香に背中を向けたまま言う。

「……似てると思ったの。島崎と、私」

「……え?」

「一見明るくて軽そうなのに、
ちゃんと見てるとこ見てるし、言葉が足りない分、態度で伝えようとする。
……ああいうの、ちょっとズルいのよね」

舞香はゆっくりと笑った。

「じゃあ、ふたりとも、ちょっとずつズルくなればいいんじゃないですか?」

「……あんた、最近口が達者ね」

「店長が育ててくれたんです」

香奈衣はやれやれとため息をつき、
それでもどこか口元を綻ばせながら会議室を後にした。

その背中に――
舞香は、やわらかくて静かな“恋の気配”を感じていた。