久瀬消防署の会議室。
地域イベントの反省会が、昼過ぎから開かれていた。
長テーブルには、舞香、香奈衣、島崎、そして広報担当の署員たちが並ぶ。
「……そっちの防災パンフレット、備蓄の表記が少し古いです。次回は見直しが必要かと」
冷静に指摘したのは、香奈衣。
「了解っす。でも、その情報、提供してくれたのCafe Lierreの店長さんじゃなかったっけ?」
と、島崎が茶化すように返す。
「提供したのは“紙面レイアウト”だけ。中身は消防署側の資料を使ったでしょ」
「……なるほど、責任はこっちってことね。りょーかい」
どこか噛み合わないふたりのやり取りに、
舞香は苦笑しながらそっと心の中でつぶやく。
(……このふたり、前世で犬猿の仲だったのかな)
(今世で“焦らし合い中”?)
そんな独り言の最中も
島崎と香奈衣の応酬は続いていた。
「……にしてもさ。店長、コーヒー、前よりまろやかになったよね」
「……は?」
「前はもっと苦味強めだったけどさ。……なんか、丸くなった?」
「……あなたが、舌を鍛えただけでしょ」
「じゃあ、俺が育てたってことでいい?」
「なにその理屈。意味わからない」
「でも、ちょっと嬉しいでしょ?」
一瞬――
香奈衣が口を結んで視線を逸らした。
それは、いつもの“言い返す間”ではなく、
何かが胸の中に引っかかったような沈黙だった。
島崎はそれに気づいたかのように、
ふと声のトーンを変える。
「……ちゃんと感謝してるよ。あの時、休憩スペースのアイディア出してくれて助かった。
俺、あんまうまく言えないけど」
「……わかってる。言葉にしないだけで、全部わかるって思わないことね」
「そういうとこ、店長っぽい」
「うるさい」
でも、ほんの少し――
香奈衣の声が、やわらかかった。
地域イベントの反省会が、昼過ぎから開かれていた。
長テーブルには、舞香、香奈衣、島崎、そして広報担当の署員たちが並ぶ。
「……そっちの防災パンフレット、備蓄の表記が少し古いです。次回は見直しが必要かと」
冷静に指摘したのは、香奈衣。
「了解っす。でも、その情報、提供してくれたのCafe Lierreの店長さんじゃなかったっけ?」
と、島崎が茶化すように返す。
「提供したのは“紙面レイアウト”だけ。中身は消防署側の資料を使ったでしょ」
「……なるほど、責任はこっちってことね。りょーかい」
どこか噛み合わないふたりのやり取りに、
舞香は苦笑しながらそっと心の中でつぶやく。
(……このふたり、前世で犬猿の仲だったのかな)
(今世で“焦らし合い中”?)
そんな独り言の最中も
島崎と香奈衣の応酬は続いていた。
「……にしてもさ。店長、コーヒー、前よりまろやかになったよね」
「……は?」
「前はもっと苦味強めだったけどさ。……なんか、丸くなった?」
「……あなたが、舌を鍛えただけでしょ」
「じゃあ、俺が育てたってことでいい?」
「なにその理屈。意味わからない」
「でも、ちょっと嬉しいでしょ?」
一瞬――
香奈衣が口を結んで視線を逸らした。
それは、いつもの“言い返す間”ではなく、
何かが胸の中に引っかかったような沈黙だった。
島崎はそれに気づいたかのように、
ふと声のトーンを変える。
「……ちゃんと感謝してるよ。あの時、休憩スペースのアイディア出してくれて助かった。
俺、あんまうまく言えないけど」
「……わかってる。言葉にしないだけで、全部わかるって思わないことね」
「そういうとこ、店長っぽい」
「うるさい」
でも、ほんの少し――
香奈衣の声が、やわらかかった。



