シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

署を出たあと、舞香はひとりで街を歩いていた。

春の風が少し強くなっていて、
髪が揺れるたびに、海斗の“耳キス”の感触が蘇ってくる。

(……もう、甘やかしすぎ……)

あれだけ堂々とされたら、
もう隠しようがない。

島崎のあの表情も、まわりの空気も、
全部が「見てました」って言ってるみたいだった。

(……でも、あんなふうに言ってくれるなんて、ずるい)

“好きだよ”
あんな顔で、あんな声で。

思い出しただけで、足元がふわっと軽くなる。

──その夜、閉店後のCafe Lierreで。

店内の片付けをしていると、香奈衣がぽつりと声をかけてきた。

「……舞香さ」

「はい?」

「今日、消防署行ったでしょ? 書類の件で」

「……う、うん……」

「……で、どうだったの?」

「な、なんの話ですかっ」

「あんたさ、顔に出るタイプだから隠しきれてないって。
あんなトロけた顔で帰ってきたら、誰でも気づくわ」

「……うぅ……やっぱり……」

香奈衣は無言で舞香の頭をぽんとひと撫でし、
そのまま厨房に戻っていく。

「……でも、あの人が相手なら。安心して見てられるよ」

その言葉だけを背中で受け取りながら、
舞香は、胸の奥がすうっとあたたかくなるのを感じていた。