シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

久瀬消防署。
広報室の前、控えめに扉をノックした舞香に、
すぐさまあの声が返ってきた。

「どうぞ」

扉を開けると、書類整理をしていた海斗が振り返り――
その笑顔が、一気に甘くなる。

「舞香……来てくれたんだ」

「……書類の提出に来ただけだよ?
“私用”じゃないからね」

「でも来てくれたことに変わりない。嬉しいよ」

舞香が手に持っていた資料を差し出すと、
彼はそれを受け取りながら、指先をそっと重ねてきた。

「……海斗くんっ、ここ署内、見てる人……!」

「大丈夫、誰もいない」

「そういう問題じゃ――」

そのとき、扉の外から控えめな咳払いが聞こえた。

「……あっ、失礼しますー。島崎、提出物の確認を――
……あー、なるほどね」

舞香と海斗の微妙な距離感、
そして海斗の“恋人モード”全開の表情。

「……あのふたり、絶対付き合ってるって署内で噂してたけど、
まじだったんだなー、うわぁ」

「ちょ、島崎さんっ!」

「俺、見てないことにするんで。安心して続けてください。
お幸せに~」

「ちょ、ちょっと……!」

舞香は真っ赤になって俯き、
海斗はまったく気にせず淡々とした声で返す。

「バレて困ることは、ないよ」

「でも……」

「大事な人とちゃんと向き合ってるだけ。
周りにどう見られても、俺は……」

そう言って、そっと舞香の耳元に顔を寄せる。

「……好きだよ、舞香」

「ちゅ……」

耳に落ちた音が、また体を震わせる。

(……もう、ほんとにだめ。甘やかされすぎて、骨抜きになりそう)

でも――
その甘さに、身を委ねてしまう心地よさを、
舞香はもう知ってしまっていた。