シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

「卵焼き、甘いのと塩っぱいの、どっち派?」

舞香がそう聞きながら、フライパンの前で菜箸を動かす。

「甘いの。絶対、甘いの」

「……だと思った。
昨日、ドリンクも甘めだったし」

キッチンから漂う香りが、
朝の静けさにふんわりと溶けていく。

「……なにか、落ち着くね。こういうの」

「ほんと? 普通の朝だけど」

「それがいいんだよ。
……普通の朝に、舞香がいてくれることが」

テーブルに座って湯気の立つ味噌汁を見つめながら、
海斗がぽつりと言った。

舞香は、火を止めて彼の方を見つめる。

「……どうしたの?」

「ちゃんと、言ってなかったなって思って。
その……ちゃんと、付き合ってください」

舞香の手が一瞬止まり、
顔にじんわりと照れがにじむ。

「……改まって言われると、ちょっと照れるね」

「でも、大事なことだから。
言葉にしないと、ちゃんと伝わらないでしょ」

舞香は、ひと呼吸置いてから――微笑む。

「……うん。改めて、よろしくお願いします、海斗さん」

その言葉に、海斗が立ち上がり、
舞香のすぐそばまで歩いてくる。

「あとさ、もうひとつ……お願い」

「え?」

「名前、呼んでほしい。
……“海斗”って。くん付けでも、呼び捨てでも、なんでもいいから」

舞香は頬を染めながら、
ゆっくりと彼の前へ足を踏み出した。

そして――
そっと、彼の胸に両腕を回して、抱きしめた。

「……海斗くん」

海斗は驚いたように一瞬固まったあと、
すぐに彼女をしっかりと抱き返す。

「もう一回、言って」

「海斗くん……」

「……今の、録音していい?」

「ダメに決まってるでしょ」

ハグしたまま、額と額をそっと寄せ合って笑う。
やっと交差した心が、温度とぬくもりで確かめられた朝だった。