シュガーラテ──命を救う腕に、甘えたくなる午後がある

イベントが終わる頃には、
舞香の身体は、ほんの少しだけ揺れるように疲れていた。

朝比奈はそんな彼女を見て、そっと声をかける。

「帰り、大丈夫ですか? 送りますよ。タクシー拾いましょうか」

「……ありがとうございます。
あの、もし……よかったら、うち来ませんか?」

朝比奈の目がわずかに見開かれる。

「え?」

「今は……あまり気を使いたくなくて。
でも、もう少しだけ一緒にいたいなって思ってしまって」

舞香の言葉は、ほんのり頬を赤く染めながらも、
どこかまっすぐだった。

「俺なんかでよければ、喜んで」

 

*  *  *

 

舞香の部屋は、清潔であたたかい空気が流れていた。

香りの強くない柔軟剤と、読書用の小さな照明。
“ひとり時間を大切にしてきた人”の静けさがそこにはあった。

リビングのソファで、ふたり並んで缶の炭酸をあけ、
簡単にあたためたスープを分け合った。

「このスープ、好きなんです。
ほっとする味って、ありますよね」

「……わかります。
今日一日、ずっと張ってた気がします。
でも今は、なんだか全部ほどけてくるみたいで」

舞香の言葉に、朝比奈は頷いた。

「その顔、ちゃんと力抜けてる」

「じゃあ……今夜くらい、甘えてもいいですか?」

舞香がそっと、彼の肩に頭を預けた。

「ずっと甘えてください。
俺……そのために、ここに来たのかもしれません」

ソファの上で重なる体温。
手と手が自然に、指先からつながって――

ゆっくりと、ふたりの距離が、
“恋人”として変わっていく夜が始まろうとしていた。