あれのことを魔戦士と呼ぶこととなった。
決して彼の名前であれを呼ばせない。
私がそれを許さない。
その魔戦士の剣を私が粉砕させたことで撃退させた。ザク剣術は武器破壊も得意とするところであるからだ。
短い時間の戦いであったが多くのことが分かった。
先ず魔戦士は魔法の類を無効化する。応援に駆け付けたディータの魔法がまるで効かなかった。
彼の攻撃魔法はすべて無効であり、それどころか拘束系といった他の魔法もまるで通用しなかった。
彼は決して未熟な魔術師などではない。
いまの段階で既にザクでも屈指の術師であり、これから先の修行では世界でも指折りの術師となることが確実視されている。
私の夫になる男はそういうものである。そんな彼の魔法がまるで通じない。そのことを彼は嘆いてはいるものの、私はある意味で安堵した。
あの人はそういったものでは倒されないのだと。
倒せる可能性があるのは物理的な攻撃だけ。斬れば痛がり怯む感覚を有しているし決して狂戦士だということではない。
通常に戦い制圧すればいい話であり、そのことができるのはつまり私だけになる。あの速さと剣の技術、強さはこの私に比肩するほどのもの。
そんな剣士は世界広しとはいえそうはいない。
勇者ジーク達の亡き後は滅多に見当たらなくなるだろう。
つまり私以上の剣士はいないということだ。私はこれからもっと強くなれる。だからあれを倒しまたは彼を救える。
魔王によって支配されてしまったあなたを必ず取り戻す。あなたは生きているのだから、もとに戻れるはずだ。
「ディータ殿の証言ではアーダンがアグ・リアス殿を刺し殺したとのことですが」
「違いますね」
「しかしあの場に凶器といえるものはあの砕けた剣だけで」
「それでも、違います」
救援に駆けつけた後続の部隊と共に脱出した先で私はオルガ殿から質問を受けた。
魔王についてのこと、勇者ジークの最後についてのこと、そして彼の仲間殺しの容疑のこと。
私の態度に彼も引き下がりこの件はひとまず伏せられることとなる。このことは一部のものしか知らない、知ってはならないこととなった。
ひとまずアーダンは戦死し魔戦士との関連は公開されなかった。
ディータはこの件に関して反論したが私の頑なな態度によって沈黙した。
ごめんなさい、でも許してください。
あなたとは他のことはいくらでも相談し共に解決していく最良のパートナーではあるが、この件に関しては駄目。
私だけの、私達だけの問題であり、そこでしか解決させたくない。
これは目に見えるものが必ずしも正しいということでは無いのです。
それと予感もあった。あの人は私だけを狙い殺しに来るだろうと。
どうしてかそれを信じられた。
ディータの魔法や攻撃に関してあの人はまるで相手にせずに私だけに向かってきた。
それは以前からの彼に対する態度もあって妙に合っているが、それだけではない。
そうなのだ彼は私にしか注意が向かない。剣が壊れたから下がったのも当然と思った。
剣で私を倒さなければいけないのだ。私とあなたの関係はそういうものであるはず。
不思議な、恍惚感の中に私はいる。
ある意味でずっと望んでいたものがここに現れているのかもしれない。
形は違えど、意味は違えど、それでもそこは同じものであるはずだ。
あなたは私だけを見る。憎悪と殺意によって……それでも同じこと。私には違いが分からないし分からなくて良い。
客観的に見ればあなたは愛を巡る争いで両者を殺し、そして魔の導きによって闇に堕ち自分の全てを滅ぼすために私をも殺そうとしているというこの状況に対して、私だけは違うと言います。
たとえ世界中の誰もがそうであるといい、そうだと決まっていても、私は違うと言う。
そうではないと、私だけは同意しない。
これはたとえあなたがそうだと言ったとしてもだ。あなたは間違えていると私は宣言するだろう。
違う、と。
あなたへ何度もなく叫んだその言葉は私しか分からない直観です。
あなたといた私にしか分からないもの。あなたにだって分からないもの。
それを疑うことを私自身は出来るはずがない。私は私の中にあるあなただけを信じているのだから。
そうです、私はあなたの心の美しさを信じているのです。
それに叔母様のあの表情。痛みや苦しみが刻まれていない安らかな綺麗な死に顔もまたその証拠なはず。
あの人の手にかかったとしたら、殺されたとしたら、はたしてあんな表情ができるか。
このような顔ができるのか?
それとその状況で叔母様の手がホリンの手に掛けられていることを彼が許すか。
でもなんかそこは許しそう、あの人なんかそういうところあるからなぁ、変なところで察しが良くて物わかりがよくて逆に困るんだけどなぁ、両極端でなぁそうじゃなくて、殺すほどの意思があったらそこは外すのでは?
それどころかもしも叔母様のホリンへの愛を知ってしまったのなら、あの人はむしろ二人の手を重ねさせるのでは?
まぁこれは考え過ぎであれは偶然の結果そうなったのであって、彼は気づいていなかったと見た方が自然ですね。
とにかく私の中のあなたは、そういう人です。
だけども、もしも叔母様を殺した罪悪感で闇に堕ちたのなら、そうせざる何か故に堕ちたのなら、それによって私を殺す事情ができたというのなら、良いですよ私は正面からあなたと対峙し、私があなたを救いまたは滅ぼすまでです。
もしもそうではないのなら、それもまた同じで私があなたを滅ぼし救うまでです。
私への殺意は救いか、それとも私に滅ぼされたいのか、いいですよ愚弟、あなたの生も死も私が司ります。
師として友として、そして愛するもののため。
私はかつても、そして、これからもそのために生きているようなものですから。
決して彼の名前であれを呼ばせない。
私がそれを許さない。
その魔戦士の剣を私が粉砕させたことで撃退させた。ザク剣術は武器破壊も得意とするところであるからだ。
短い時間の戦いであったが多くのことが分かった。
先ず魔戦士は魔法の類を無効化する。応援に駆け付けたディータの魔法がまるで効かなかった。
彼の攻撃魔法はすべて無効であり、それどころか拘束系といった他の魔法もまるで通用しなかった。
彼は決して未熟な魔術師などではない。
いまの段階で既にザクでも屈指の術師であり、これから先の修行では世界でも指折りの術師となることが確実視されている。
私の夫になる男はそういうものである。そんな彼の魔法がまるで通じない。そのことを彼は嘆いてはいるものの、私はある意味で安堵した。
あの人はそういったものでは倒されないのだと。
倒せる可能性があるのは物理的な攻撃だけ。斬れば痛がり怯む感覚を有しているし決して狂戦士だということではない。
通常に戦い制圧すればいい話であり、そのことができるのはつまり私だけになる。あの速さと剣の技術、強さはこの私に比肩するほどのもの。
そんな剣士は世界広しとはいえそうはいない。
勇者ジーク達の亡き後は滅多に見当たらなくなるだろう。
つまり私以上の剣士はいないということだ。私はこれからもっと強くなれる。だからあれを倒しまたは彼を救える。
魔王によって支配されてしまったあなたを必ず取り戻す。あなたは生きているのだから、もとに戻れるはずだ。
「ディータ殿の証言ではアーダンがアグ・リアス殿を刺し殺したとのことですが」
「違いますね」
「しかしあの場に凶器といえるものはあの砕けた剣だけで」
「それでも、違います」
救援に駆けつけた後続の部隊と共に脱出した先で私はオルガ殿から質問を受けた。
魔王についてのこと、勇者ジークの最後についてのこと、そして彼の仲間殺しの容疑のこと。
私の態度に彼も引き下がりこの件はひとまず伏せられることとなる。このことは一部のものしか知らない、知ってはならないこととなった。
ひとまずアーダンは戦死し魔戦士との関連は公開されなかった。
ディータはこの件に関して反論したが私の頑なな態度によって沈黙した。
ごめんなさい、でも許してください。
あなたとは他のことはいくらでも相談し共に解決していく最良のパートナーではあるが、この件に関しては駄目。
私だけの、私達だけの問題であり、そこでしか解決させたくない。
これは目に見えるものが必ずしも正しいということでは無いのです。
それと予感もあった。あの人は私だけを狙い殺しに来るだろうと。
どうしてかそれを信じられた。
ディータの魔法や攻撃に関してあの人はまるで相手にせずに私だけに向かってきた。
それは以前からの彼に対する態度もあって妙に合っているが、それだけではない。
そうなのだ彼は私にしか注意が向かない。剣が壊れたから下がったのも当然と思った。
剣で私を倒さなければいけないのだ。私とあなたの関係はそういうものであるはず。
不思議な、恍惚感の中に私はいる。
ある意味でずっと望んでいたものがここに現れているのかもしれない。
形は違えど、意味は違えど、それでもそこは同じものであるはずだ。
あなたは私だけを見る。憎悪と殺意によって……それでも同じこと。私には違いが分からないし分からなくて良い。
客観的に見ればあなたは愛を巡る争いで両者を殺し、そして魔の導きによって闇に堕ち自分の全てを滅ぼすために私をも殺そうとしているというこの状況に対して、私だけは違うと言います。
たとえ世界中の誰もがそうであるといい、そうだと決まっていても、私は違うと言う。
そうではないと、私だけは同意しない。
これはたとえあなたがそうだと言ったとしてもだ。あなたは間違えていると私は宣言するだろう。
違う、と。
あなたへ何度もなく叫んだその言葉は私しか分からない直観です。
あなたといた私にしか分からないもの。あなたにだって分からないもの。
それを疑うことを私自身は出来るはずがない。私は私の中にあるあなただけを信じているのだから。
そうです、私はあなたの心の美しさを信じているのです。
それに叔母様のあの表情。痛みや苦しみが刻まれていない安らかな綺麗な死に顔もまたその証拠なはず。
あの人の手にかかったとしたら、殺されたとしたら、はたしてあんな表情ができるか。
このような顔ができるのか?
それとその状況で叔母様の手がホリンの手に掛けられていることを彼が許すか。
でもなんかそこは許しそう、あの人なんかそういうところあるからなぁ、変なところで察しが良くて物わかりがよくて逆に困るんだけどなぁ、両極端でなぁそうじゃなくて、殺すほどの意思があったらそこは外すのでは?
それどころかもしも叔母様のホリンへの愛を知ってしまったのなら、あの人はむしろ二人の手を重ねさせるのでは?
まぁこれは考え過ぎであれは偶然の結果そうなったのであって、彼は気づいていなかったと見た方が自然ですね。
とにかく私の中のあなたは、そういう人です。
だけども、もしも叔母様を殺した罪悪感で闇に堕ちたのなら、そうせざる何か故に堕ちたのなら、それによって私を殺す事情ができたというのなら、良いですよ私は正面からあなたと対峙し、私があなたを救いまたは滅ぼすまでです。
もしもそうではないのなら、それもまた同じで私があなたを滅ぼし救うまでです。
私への殺意は救いか、それとも私に滅ぼされたいのか、いいですよ愚弟、あなたの生も死も私が司ります。
師として友として、そして愛するもののため。
私はかつても、そして、これからもそのために生きているようなものですから。


