ここはどこだろうか。

 薄暗いけどキラキラした光が散りばめられた綺麗なところ。

 でもいったいどこだろう?

 私はさっきまで魔王城にいて、その魔王と戦うもいよいよ手に負えなくなって逃げ出しそして……そうだあの人を捜していたんだっけ。

 きっとあの人は私や叔母様を捜してあちこち彷徨き回っているから急いで見つけないと。

 弱い癖にそういうことをするから手が焼けるのですよね。

 もしも死んでしまったら一体全体にどうしてくれるのやら、本当に困った人。私のことをちゃんと考えて欲しいものだ。

 あの人は運が悪いから魔王のデタラメな魔弾が直撃してしまい一撃でやられてしまいそうで心配。

 そんな取り返しのつかないことになる前にと探していて、そうだ見つけたんだ。

 良い感じに勘が冴えていてここだと見当をつけて入ったあのよく分からない空間で。

 私はようやく巡り会えた嬉しさのあまりか胸に痛みさえ覚えながら名前を呼びかけたら、あの人もついに私を見つけた喜びのあまりか私の名前を叫び声で呼んだのですよね。

 ああびっくりした! 言葉の衝撃で胸がもっと痛くなりましたよ。というかこっちが見つけたんだからそこは逆にしないでほしいですよね。

 まるで私の方が迷子みたいじゃないですか。そこらへんが相変わらずトンチンカンなんですよね。自分を客観視できないというやつ。

 でもまぁここはあちらを立ててあげても良いですね。全然活躍できないところで迷子扱いされたらあの人のプライドが傷つくでしょうし、こういうところまでちゃんと考えられるのが私の偉いところで王になるものの徳といったところ。

 そしてすごい形相で駆け付けたあの人はどういうことか私を抱きしめにかかったんだ。

 ちょっと待って、それはやりすぎというか、あなたはそういうことはしないタイプなはずなのに何故?

 別にしても良いですけどこちらにも心の準備というものがあって、ほら胸がますます痛くなってる。ドキドキさせないでくださいよ。そういうのは駄目なんですから。

 ヤバいな、意識が遠ざかっていく。そんなに感激したのか私は? いや、そうではないな。これは夢、そう、夢です。

 アーダンさんは私にそういうことをしないし、私はこういうことに対して特別に意識をしてはいけないのです。

 私達はいわばそういう関係でなければなりません。よってやり直しというか、夢ということで処理しておきましょう。はい、おしまい、夢オチにします。

 でもせっかくの夢なので私もついうっかり抱きしめてしまいましょう。

 でも、ほら、身体が、動かない。さすがは夢、思い通りにならない。夢も現実も思い通りにならない。

 この何もかもがままならない口惜しさ! 一度だけでもいいじゃないですか。必然は駄目ですなのですから事故や偶然による一度だけで私は満足します。

 それすら駄目とはご無体で無慈悲な話です。

 さぁ腕を上がれ頑張れオヴェリア、ほらアーダンさんはすごい力で私を抱きしめているのですよ。でも痛くないから人間の意識の力ってすごいと私は思います。

 ですから私もそれに応えて……うぅ意識がどこか遠くへ……あっでも掌が彼の背中に触れて……私は……




 あれ? ここはさっきの場所と私は自分の意識が戻ったことを知りました。

 一人で立っている? 

 やはりあれは夢か、ちょっと残念ですがどうしてあそこで白昼夢を? 疲れかなにか、もしや魔王の幻術の類ならやられていましたから怖いところでした。

 夢だった証拠にさっきまで私を抱きしめていたアーダンさんは遠くの方に。

 なーんだ本当に夢だったかぁ……別にいいのですけどね。全然気にしていませんし。

 その彼は叫ばずにこちらに向かわずに俯いて何を……何を……何を!

「違う」

 私はそう宣言した。有り得るはずがないのだ。

 あの人がその人に対してそんなことをするだなんて。

「違う」

 今度はもっと大きめの声で言った。そうすればそれが変わると思っているように、そうなるはずだと願うように。この世界が間違えていると告げるように。

 だってそのはずだ。あの人は愛するその人にそんなことをするはずがない。

 あなたはその人を愛していた。心から愛していた。それを私は知っている。

 痛みと苦しみを覚えるぐらいに、誰よりも知っている。

 その人よりずっとずっと私はあなたのその心を、知っているのだから。

「違う」

 そんなはずがない。剣を抜いたそれがこちらを見た。知らない瞳がそこにあった。あなたは私にそんな目を向けない。だからそうだ分かります。

「違う」

 彼の周りにまとっている影が濃くなり、それが身体に吸い付いていく。あたかもそれは甲冑を着ているように、闇と一体化するように。

 私の手は自然に剣の柄へと添えられる。

 来るからだ、あれが来る。あの人の姿をしたそれが、来る。

「違う!」

 それの姿が消え私は反射的に剣を払い居合を放つと、剣同士が激突する。

 互角、と私は感じながら体を捌きながら切り返し、それからその手首を落そうと動いた。

 その結果を私は見抜いていた。

 見抜いているからこそのこの切返しであった。それは私の動きに完全に反応した。

 かつて私自身がしつこく教えた次攻撃の動き。彼はそれを防ぐことができなかった。

 だがここでは、できた。だから、

「違う!」

 まだできないはずであると同時に知らないと防げない動き。

 その姿になってもあなたはまだ生きているという確信とそして私に対してこんなことはしないという矛盾のなか、私は繰り返し叫んだ。

「違う!」

 今の私達は現実ではなく悪夢の中に堕ちている。私達が殺し合うことだなんて違う。あなたは私を殺して生きようと思うはずがない。

 だから絶対に、違う。こんなことは有り得ない!

 鍔迫り合いとなり、私達は睨みあった。闇の仮面の中であなたの姿をしたそれが私を見る。

 闇に堕ちたであろう彼の顔が見えた。

 私の中であらゆる感情が噴き上がり涙となって両目から流れる。

 よくも私を泣かせたなという怒りと共に私は唇にあたる自身の涙をすすり、誓う、私はあなたを、取り戻す。この身に賭けても、命に賭けてもだ。

 決心すると背後から駆けつけてきてくれたディータの声が聞えた。