ア・テンション・プリーズ! こちらをごらんください! これがあの魔王城の大正門でございます。本物は第二次聖戦の最終決戦時に燃え落ちてしまいましたので、こちらはレプリカとなりますが、それでも史料を元に当時の形とそっくりに復元させることに成功いたしました、お次は……
前を歩く団体客が案内員に導かれるのを眺めながら俺は溜息をつく。あちこちから威勢の良い売り子の声に子供たちの笑い声、なんとも賑やかである。
「魔王城が一大観光地となっているとはな。夢にも思わなかったよ」
遠目からはあの頃と変わらぬ荘厳なるその姿。だが近づくにつれおどろおどろしさが消えていく魔王城。張りぼてのようである。最寄の駅名はそのまんま魔王城前。
「みんなが見たがっているんだからしょうがないじゃない。ああ……すごい」
アルマが大正門を見つめ感激に浸りながら言った。
「ここは特に見たがっていたし来てよかったです」
ラムザは大正門をスケッチしている。二人ともなにからなにまでいちいち感動していた。
「入口でこれだと中に入ったらどうなることやら楽しみね」
「いやいやアルマ、こういうのは入り口が一番面白いんだ。期待で胸を膨らませて扉を開くまでの高揚感が気持ちが良いのがお約束ってね」
「二人が楽しいのなら俺は結構だが、しかしまさかセブポイントから真っ直ぐ道が出来ていて列車で行き来できるとはな。俺の頃は歩いていったのにな」
「ここの説明を致しますと三年前に完成しました。戦後の魔王城を管轄していたのがグラン・ベルン王国でしたが、戦いの歴史を後世に残すべく十数年の歳月をかけてようやく出来上がったところです。
もちろんザク王国も協力し、第一次聖戦時での魔王城の内容紹介は前イザーク女王である御婆様の証言も参考に作られているとのことです。ですが確認はできず終いでした」
「そうかオヴェリアちゃんはこれを見ずに死んだわけか……残念だったろうな」
「見たいと行っていたから残念よね。そうなのよ完成直前に亡くなっちゃったの。そして私たちもここに行く予定だったけど喪の期間は中止になっていたってこと。今回の旅はここを見学するという目的もあったわけ」
「そうか。それで第二次聖戦が終わった後の魔王城は放置されていたのか?」
「いえ。グラン・ベルン王国の管轄下にありまして厳重な警備の元で立ち入り禁止となっていました。極一部のもの以外は立ち入りが禁止であったとのことです」
「隠し事が沢山ありそうなことだ。それにしてもよくも原形をとどめていたな」
「第一次聖戦の時は城内での決戦となりましたが、第二次聖戦時では城内での戦いは限定的なものでしたからね。おそらく魔王が第一次聖戦での城内乱戦に懲りた為に城外でケリをつけたかったのでしょうが敗北しそのまま魔王城は接収され世界は解放されました」
「その世界解放の象徴が魔王城の観光地化か……とてもいいことだな。異形なるものはそうやって消費されることで浄化できるはずだ。それでひとつ聞きたいが俺はここで戦死したことになっているんだよな?」
「……なっているわ。お墓だってちゃんとあるし」
「では先ずそこに行こうか。案内してもらえるか?」
「待って? あんたここに来たことあるんでしょ? だったらなんでも知っているはずでしょうが」
「いや全然知らない。俺は極一部の場所しか知らないしましてや全体なんか知らん。
この中だって無我夢中で大混乱のなか駆けていたしな。そもそも表から入っていないからこの大正門なんて遠目からしか見ていないぞ」
「えっ? 第一次聖戦は正面突破から最終決戦ですが違うのですか?」
「正面には陽動の別隊が配置され本隊は裏口からこそこそ侵入だよ」
「知りたくなかった! 道理で話があまりにもうまくいきすぎていると思っていたんだ! たまに話題になる正面突破無理じゃない説が証言で覆った!」
「また御婆様の創作か。まぁそうしないと第一次聖戦の最終決戦が映えないからしょうがないわね。
それで実際のあんたはそういうところでなにをしていたわけなの? 御婆様の証言がちょっと怪しいのなら本人の口から聞いた方が良いわね」
「うん、そうだな。オヴェリアちゃんを身を挺した守ったという創作はないとして、実際の俺の任務は脱出路の発見と確保といったところにあったかな」
「へっ? 負けて逃げるということも想定されていたのですか? 勝ってから帰るという不退転の覚悟とかでは」
「そういう宣言は聞いたから間違えではないが、その一方で俺はオルガ様からちゃんと指示を与えられていた。
勝利が望めなくなった場合にはみなが逃げられるように、入った際の侵入路以外のルートも探索し発見するようにとな。俺以外の戦士の何人かもその任務を受け持ったはずだが」
「それは知らない話ですね。史実では敗走時には裏口の一つの扉から脱出できたとしか記されていません。そうなるとヤヲさんの任務はもしかして……」
「失敗したという事になるのか? でもそれはなんだかおかしい。
何故なら俺は扉を見つけていたのだがな。しかもかなり大きいのに何故か目立たない場所にあって外に繋がっていて、これは良いとオルガ様への連絡係に伝えしたはずだが」
「待った。もしかしたらその扉は……ちょっとそこまで行ってみましょうよ。もしかして私その扉の場所を知っているかも」
「はいはい外周からこっちで……これなのか? なんか記憶にないような……」
「それはあんたが扉を内側から見たからでしょうに! 外からは確認していないでしょ」
「あっそうかそうか俺としてはここから出てはいないからな。では中に入って、内側から見ると……おお、これっぽい!」
「なんと。これでヤヲさんの隠れた功績が発見できましたね。逃亡時の扉がこれなんですよ。ほらここにパネルがありますよね。入口として使った裏口は何らかの理由で使用できなくなり主にこちらを利用することとなったわけじゃないかと」
「でもなんで魔王軍側はこっちを放置したのかしら? これで御婆様は脱出できたわけだけど大きなミスよね」
「実際のところは分からないが俺が見つけた経緯を考えると、妙な場所にあるからじゃないかなと」
「どういうこと?」
「歩いていこうか。再現されているのなら分かると思うのだが途中に部屋があってな」
「その部屋がどうなされましたか?」
「何とも不思議な空間だったんだよそこは」
前を歩く団体客が案内員に導かれるのを眺めながら俺は溜息をつく。あちこちから威勢の良い売り子の声に子供たちの笑い声、なんとも賑やかである。
「魔王城が一大観光地となっているとはな。夢にも思わなかったよ」
遠目からはあの頃と変わらぬ荘厳なるその姿。だが近づくにつれおどろおどろしさが消えていく魔王城。張りぼてのようである。最寄の駅名はそのまんま魔王城前。
「みんなが見たがっているんだからしょうがないじゃない。ああ……すごい」
アルマが大正門を見つめ感激に浸りながら言った。
「ここは特に見たがっていたし来てよかったです」
ラムザは大正門をスケッチしている。二人ともなにからなにまでいちいち感動していた。
「入口でこれだと中に入ったらどうなることやら楽しみね」
「いやいやアルマ、こういうのは入り口が一番面白いんだ。期待で胸を膨らませて扉を開くまでの高揚感が気持ちが良いのがお約束ってね」
「二人が楽しいのなら俺は結構だが、しかしまさかセブポイントから真っ直ぐ道が出来ていて列車で行き来できるとはな。俺の頃は歩いていったのにな」
「ここの説明を致しますと三年前に完成しました。戦後の魔王城を管轄していたのがグラン・ベルン王国でしたが、戦いの歴史を後世に残すべく十数年の歳月をかけてようやく出来上がったところです。
もちろんザク王国も協力し、第一次聖戦時での魔王城の内容紹介は前イザーク女王である御婆様の証言も参考に作られているとのことです。ですが確認はできず終いでした」
「そうかオヴェリアちゃんはこれを見ずに死んだわけか……残念だったろうな」
「見たいと行っていたから残念よね。そうなのよ完成直前に亡くなっちゃったの。そして私たちもここに行く予定だったけど喪の期間は中止になっていたってこと。今回の旅はここを見学するという目的もあったわけ」
「そうか。それで第二次聖戦が終わった後の魔王城は放置されていたのか?」
「いえ。グラン・ベルン王国の管轄下にありまして厳重な警備の元で立ち入り禁止となっていました。極一部のもの以外は立ち入りが禁止であったとのことです」
「隠し事が沢山ありそうなことだ。それにしてもよくも原形をとどめていたな」
「第一次聖戦の時は城内での決戦となりましたが、第二次聖戦時では城内での戦いは限定的なものでしたからね。おそらく魔王が第一次聖戦での城内乱戦に懲りた為に城外でケリをつけたかったのでしょうが敗北しそのまま魔王城は接収され世界は解放されました」
「その世界解放の象徴が魔王城の観光地化か……とてもいいことだな。異形なるものはそうやって消費されることで浄化できるはずだ。それでひとつ聞きたいが俺はここで戦死したことになっているんだよな?」
「……なっているわ。お墓だってちゃんとあるし」
「では先ずそこに行こうか。案内してもらえるか?」
「待って? あんたここに来たことあるんでしょ? だったらなんでも知っているはずでしょうが」
「いや全然知らない。俺は極一部の場所しか知らないしましてや全体なんか知らん。
この中だって無我夢中で大混乱のなか駆けていたしな。そもそも表から入っていないからこの大正門なんて遠目からしか見ていないぞ」
「えっ? 第一次聖戦は正面突破から最終決戦ですが違うのですか?」
「正面には陽動の別隊が配置され本隊は裏口からこそこそ侵入だよ」
「知りたくなかった! 道理で話があまりにもうまくいきすぎていると思っていたんだ! たまに話題になる正面突破無理じゃない説が証言で覆った!」
「また御婆様の創作か。まぁそうしないと第一次聖戦の最終決戦が映えないからしょうがないわね。
それで実際のあんたはそういうところでなにをしていたわけなの? 御婆様の証言がちょっと怪しいのなら本人の口から聞いた方が良いわね」
「うん、そうだな。オヴェリアちゃんを身を挺した守ったという創作はないとして、実際の俺の任務は脱出路の発見と確保といったところにあったかな」
「へっ? 負けて逃げるということも想定されていたのですか? 勝ってから帰るという不退転の覚悟とかでは」
「そういう宣言は聞いたから間違えではないが、その一方で俺はオルガ様からちゃんと指示を与えられていた。
勝利が望めなくなった場合にはみなが逃げられるように、入った際の侵入路以外のルートも探索し発見するようにとな。俺以外の戦士の何人かもその任務を受け持ったはずだが」
「それは知らない話ですね。史実では敗走時には裏口の一つの扉から脱出できたとしか記されていません。そうなるとヤヲさんの任務はもしかして……」
「失敗したという事になるのか? でもそれはなんだかおかしい。
何故なら俺は扉を見つけていたのだがな。しかもかなり大きいのに何故か目立たない場所にあって外に繋がっていて、これは良いとオルガ様への連絡係に伝えしたはずだが」
「待った。もしかしたらその扉は……ちょっとそこまで行ってみましょうよ。もしかして私その扉の場所を知っているかも」
「はいはい外周からこっちで……これなのか? なんか記憶にないような……」
「それはあんたが扉を内側から見たからでしょうに! 外からは確認していないでしょ」
「あっそうかそうか俺としてはここから出てはいないからな。では中に入って、内側から見ると……おお、これっぽい!」
「なんと。これでヤヲさんの隠れた功績が発見できましたね。逃亡時の扉がこれなんですよ。ほらここにパネルがありますよね。入口として使った裏口は何らかの理由で使用できなくなり主にこちらを利用することとなったわけじゃないかと」
「でもなんで魔王軍側はこっちを放置したのかしら? これで御婆様は脱出できたわけだけど大きなミスよね」
「実際のところは分からないが俺が見つけた経緯を考えると、妙な場所にあるからじゃないかなと」
「どういうこと?」
「歩いていこうか。再現されているのなら分かると思うのだが途中に部屋があってな」
「その部屋がどうなされましたか?」
「何とも不思議な空間だったんだよそこは」


